魔王と王女の物語②-Chain of destiny-【完】
「コーはお勉強なんだって。何を勉強するのかな」


「………知らない」


去り際コハクから“カルシウムを摂りなさい!”と強く言われたラスはベッドに座ってウエハースをさくさく食べつつ脚をぶらぶらさせながら隣で膝を抱えて座っているデスの顔を覗き込んだ。


「デスおねむなの?目がしょぼしょぼしてるよ?これ食べるの手伝って。食べたら一緒に寝よ」


ウエハースを受け取ったデスは一気に口に押し込んでもごもご口を動かすと、ラスよりも先にベッドに潜り込んで隣をぽんぽんと叩いた。


…コハクの真似だ。


「今の、コーの真似でしょ?ちょっときゅんってしちゃった」


「……一緒…寝る…」


横向きになってハスキーな声と優しい瞳で見つめられて、露わになった鎖骨がものすごくセクシーで、本当にきゅんとなってしまったラスは少しどきどきしながら隣に潜り込んでデスの瞳にかかった前髪を払ってやった。


「今日もベビーは元気?ねえ、触って」


「………うん。…元気。ばたばたしてる」


「ほんと?全然感じないけど…いつか感じるようになるのかなあ。楽しみ。こけたりしないようにしなきゃ」


――楽しそうに愛しそうに笑って腹を撫でたラスの身体はこれからどんどん丸みを帯びてきて、出産の準備に備える。

もう悪い未来は来ないとわかっていても、狂気に苛まれたコハクが血を吐くような絶叫を上げる姿は今も脳裏にこびりついている。

そして動かなくなったラスをずっと腕に抱いて話しかけ続けて、果てには“チビは生きている”と言い始めて完全に壊れてしまうまで――


コハクとラスのエンディングは相当に凄まじく、ラスと子供の命は絶対に助けなければならないと思った。


「デス、デス?どうしたの?今目がイッちゃってたよ?」


「……なんでも…ない…」


ラスを抱き寄せてぎゅうっと抱きしめた。

こんなにふわふわしたものを抱きしめたことがなくて、ラスが苦しそうに身じろぎをしたので見下ろすと、ぽんぽんと胸を叩いてきてむにっと頬を引っ張られた。


「もうちょっと力緩めてくれないと潰れちゃう。デスに触ってると落ち着く…。抱っこして寝てくれたら嬉しいな」


「………うん」


ふわりと力を緩めて抱きしめると、胸に頬を摺り寄せてきた。

…なんだかまた身体がじくじくと疼いた。
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