魔王と王女の物語②-Chain of destiny-【完】
「そろそろコハク様が来ますね。私は席を外しておきますから心置きなくごゆっくりどうぞ」


一緒にソファーに座って肩を並べて1冊の本を読んでいると突然オーディンが席を立ってローブを着込んだ。

ローズマリーの顔はみるみる険しくなって、胸に落ちてきた淡いピンク色の髪を乱暴に背中側に払って音を立てて本を閉めてオーディンを睨んだ。


「…どういう意味?」


「どういう意味とは逆にこちらが聴きたいですが。コハク様と大切な話をなさるんでしょう?しばらく会えなくなるんですからごゆっくり、と言っただけですよ」


「…」


――コハクがラスを伴ってあの小さな家を訪れた時は、普段通りに振舞うので精一杯だった。

何百年ぶりに真っ向から会ったにも関わらず、“どうして会ってくれなかったんだ”と責めてくることもなく、ラスを大切に扱っていて、ラスのために一喜一憂していたコハク――


「…やっぱり会うんじゃなかったわね」


「ラス王女のために意を決してあなたに会いに行ったのですから、あなたが拒絶してもコハク様は無理矢理あなたと会っていましたよ」


「そうね…ラス王女のためなら、なんでもやるものね」


…昔一緒に暮らしていた時は、自分がラスの立ち位置に居た。

愛してくれていたかは別問題として、少なくともコハクは自分に執着をしていた。


だがコハクに溺れてしまう前に家から追い出したのは…自分だ。


「私とあなたは長い旅に出る約束をしましたね。クリスタルパレスが完成したらすぐに出る予定です。コハク様とラス王女の結婚式を見ることもなく。それはあなたが望んだことですよね」


「そうよ。私は1度もお嫁さんになれなかった行き遅れだもの。他人の結婚式なんか見て楽しいはずがないわ」


「そうですか、それを直接コハク様に言うといいですよ。では失礼」


隻眼の男がやわらかい微笑を湛えたまま部屋から出て行くと、ローズマリーは身体の底から出た大きなため息をついて、コハクが何を話そうとして部屋を訪ねてくるのかを考えた。


「…どうせラス王女絡みなんでしょうけどね」


コハクはラスのためにしか動かない。

昔は…自分のためにしか動かなかった。


「…もう…比べたくないわ。こんなの惨めよ…」


――ローズマリーはローブを着てフードを被り、そっと部屋を出た。
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