魔王と王女の物語②-Chain of destiny-【完】
元々コハクに貞操観念などなかったが、ラスを愛してからというものの、ラスを悲しませるようなことだけは避けてきた。


…が、ローズマリーは酔っぱらって駄々をこねるし、このまま薬を飲まずにいると常人ならば死に至るような苦しみの発作が起きて、数日寝込んでしまうのだ。


薬を口に含んだコハクは水を注いだグラスを一気に仰ぎ、衆目がある中ぼんやりと見つめてきているローズマリーに口移しで薬を飲ませた。


「ん…、ん…、ん…」


「ったく…チビには絶対言うなよ。ほら帰るぞ」


ようやく焦点が定まってきたローズマリーの瞳孔を確認してから手を差し伸べると、普段は我が儘を言わない師匠はまた首を振ってまだ酒が残っているグラスを握ろうとした。


「おんぶして帰ってくれないといや」


「はっ、ガキかよ。いい加減にしねえとオーディンに言い付けるぞ」


「何でも屋さんがなんなのよ。私たち別に恋人同士になったけじゃないわ。お互い一緒に居て楽しいし、利益になりそうだから一緒に旅をするだけなんだから」


「…それ、オーディンには言うなよ」


――コハクの腕はラス専用。

もちろんお姫様抱っこをはしてもらえず、背中を向けて屈んだコハクの背中に負ぶさったローズマリーは、久々にコハクの匂いを嗅いで首に抱き着いた。


「だーいぶ酔っぱらってるな?俺の話…聴く気なかったってことか?」


「…そういうわけじゃないけど。大体内容はわかるわよ。ラス王女絡みでしょ?」


「当たりー。まあ…チビ絡みっていうか…俺の悩みなんだけど」


喧騒の真っただ中の繁華街を通過して大きなアーチ状の橋を渡り、川の穏やかなせせらぎの音が優しくローズマリーの心を和らげた。

コハクはこの悩みを打ち明けられるのはローズマリーだけと思っていたし、かなり思い詰めて部屋を訪ねたのに、当のローズマリーは酔っぱらっていて、話どころではない。


「やっぱまた後日でいいや。お師匠がしらふの時に話すよ」


「至ってしらふに近いわよ。部屋に着いたらシャワーを浴びさせて。その後ちゃんと話を聴くから」


「マジで?じゃあその間俺チビんとこに…」


「駄目。すぐに終わるから部屋で待ってて」


…帰さない。


今夜だけはコハクを独り占めしてやる。


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