魔王と王女の物語②-Chain of destiny-【完】
出産の知識が浅いラスは、コハクがあちこちからかき集めてきたマタニティ本を何冊も本棚から取り出して戻って来た。


「赤ちゃんを生む時ってやっぱり痛いのかな…。どう思う?」


「………痛い…と思う…」


「だよね。でも…うん、痛いのは平気。前にね、ここを剣で刺されたことがあるの。その時はすっごく痛かったけどもう忘れちゃった。あとコーと屋上ではじめて………ううん、なんでもないよ」


ぽっと頬が赤くなったラスが何を言いかけたのかはわからなかったが、隣で身体を摺り寄せて来るラスの頭を撫でたデスはコハクが用意してくれていたアルコール度の強いウォッカに手を伸ばした。


「あ、私も飲みたいな」


「……駄目…。赤ちゃんに…悪い…」


やんわり窘めると腹を撫でたラスがこつんと肩に頭を預けてきた。


「そうだね、ベビーが酔っ払っちゃう。でもね、この前まで苦手だった食べ物が食べれるようになったの。これもベビーのおかげ?」


「………多分…」


…ちなみに服に蜂蜜がかかったために今デスが着ているのはコハク用の真っ黒なシルクのパジャマで、それからコハクの香りがするのかラスがしきりに鼻を鳴らしていて少し恥ずかしくなって身じろぎをした。


「じゃあお酒も匂いだけで我慢する。私今から本読むね。デスはお酒飲んでていいよ」


マタニティ本を熟読し始めたので、時々それを横から見ながら酒を飲み始めたデスは、コハクがこんなに心穏やかな時間を過ごしていることを少し…羨ましいと感じた。


今までのコハクなら何かといっては力を行使し、荒々しく暴力的で、悪魔を捕まえてはラスには言えないようなことばかりしてきた男だ。

それが今となってはラスの“喧嘩は駄目”の一言でぴたりとやめてしまう。


ラスの影響力はものすごいと思った。

そして自分も影響されていることに少なからず気付いていた。


「……にゃ…」


「…?」


何か呟いたと思ったら、ラスの身体から力が抜けて膝に頭を預けてきて、デス、フリーズ。


「……ラス…?」


「お酒の匂いで……酔……」


さらにデスの体温で眠気が増したラスからは寝息が聴こえて、うなじから…首筋から…胸元まで勝手に視線がラスの身体を撫でていった。


「……俺……どうした…のかな…」


ソファーにラスを寝かせて、膝をついて寝顔を見守った。
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