魔王と王女の物語②-Chain of destiny-【完】
「君、そこの農場では何を育ててるのかな?」


「…」


「き、君…そこの牧場にいる鶏は牛や鶏は食用なのかな?美味そうじゃないか」


「……」


――誰に声をかけて尋ねても、誰ひとりとして答えてくれない。


フォーンは途方に暮れながらコロニーの中を歩き回り、その度にこれ見よがしに自分の陰口を叩いている声を耳にしていた。


「あの外見で浮気なんて…ティアラ王女の未来はお先真っ暗だわね」


「ティアラ王女とリロイさんはお似合いなんだから、あたしたちはあんな背も低くてハゲてて面白味のない男とティアラ王女が結婚するなんて認めないわ!」


…すでに昨晩の美女たちとの一夜はクリスタルパレス内に広まっているらしく、特に女子供たちからの非難の声は止まず、言葉を選ばない陰口はフォーンを参らせていた。


「このままではまずいぞ…。こんなことがフィリア女王の耳に入れば破談なんてことも…」


小さな落ちぶれた国の王子として生まれて、由緒ある血筋であるはずなのに、誉められて育ったためしがない。

好いた女とうまくいったためしもなく、父たちからは“私たちの代でこの国は終わりだ”と暗に非難されて、そしてようやく巡ってきたこのチャンス――


「早く話をまとめなければ…。このままでは本当に破談になってしまう」


父も母もあんなに喜んでくれたのに、またがっかりさせてしまう――


フォーンも焦っていて、着いたばかりにも関わらずまた馬に騎乗すると一目散にグリーンリバーに向かった。


――その様子を偶然目撃していたリロイとティアラは何らかの行動に出たフォーンに一抹の不安がよぎり、互いの手を握り合った。


「リロイ…フォーン王子は何を…?」


「…わかりません。あの王子のことは放っておきましょう。ティアラ、どこへ行きたいですか?僕がどこへでも連れて行ってあげますよ」


不安げだったティアラの顔がふっと笑顔になり、併設している農場と牧場をちょこちょこ走り回っているひよこを指した。


「ひよこを触りたいです。ぴよぴよ泣いてとても可愛いんですよ」


「そうですか。じゃあ行きましょう」


リロイに優しく笑いかけられてさらにほっとしたティアラは、フォーンの存在を頭の片隅に追いやった。
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