魔王と王女の物語②-Chain of destiny-【完】
皆でディナーを楽しんだ後、コハクがすぐ地下室に行ってしまったので、その後何度かおむつの替え方を練習したラスは、グラースにホットチョコを持って来てもらってそれを飲んだ後、うつらうつらして隣のデスの肩に寄りかかって眠ってしまった。


「懐かれているな」


「……」


「まだ泥沼にはなっていないのか?魔王と戦う気か?スマートじゃないし正気の沙汰じゃないと思う。やめておいた方がいい」


「……戦う?…俺と……魔王が…?」


「ラスを奪い合いしているんだろう?ラスを愛しているんじゃないのか?」


…全くぴんときていないデスの表情に少なからず驚いたグラースは鎧を脱ぎ、黒のホットパンツと白の長袖のシャツという悩殺的な格好で、大胆に脚を組み替えながら腕を組んでソファにもたれ掛った。


「愛が何なのかわかるか?」


「………わからない…」


「“好き”より上だ。触りたいと思ったりキスしたいと思ったり、抱きたいと思ったりする。ラスにそういう感情が無いと言い切れるのか?」


目の前のグラースには無反応で、ラスだとなんだか身体が妙なことになる――

その変化だけは確かなので、デスは顔にかかったラスの金の髪を背中側に払ってやりながら、素直に気持ちを吐露した。


「……触りたい……キス…したい……その後が…わからない…」


「そこまで当てはまっていれば、それは“愛”だ。ラスを想うと胸が苦しくなったりは?」


「………あったかくなる…」


――泥沼の関係ではないことがわかり、ほっとしたグラースはそれでも牽制を忘れなかった。


「ラスは魔王と一緒に居る時こそが1番綺麗で可愛らしい。お前は魔王の立場にはなり得ない。絶対にラスを奪おうと思うな。その時は…私がお前を殺す」


「……それは…ない。……俺も…魔王とラス…一緒に居る姿…見るの楽しい」


たどたどしくはあるが話すようになったデスの口角が上がると、表情は見えなかったもののそれが本音であるのは確かだと思えたので、グラースは顎でベッドを指してラスを運ぶように命令をすると立ち上がった。


「お前と考えが同じで良かった。多分私たちは相性がいい。私で妥協したらどうだ?」


「………いやだ…」


笑い声を上げつつ剣の鞘でデスの背中を思いきり殴ったグラースが部屋から出て行くと、デスはラスをベッドに寝かせて椅子を引き寄せて膝を抱えて座った。


「………愛って…なに…」


未だにわからない、その感情。
< 553 / 728 >

この作品をシェア

pagetop