魔王と王女の物語②-Chain of destiny-【完】
ラスたちがクリスタルパレスに着いた時はすでに引っ越し作業は始まっており、コロニー内は騒然としていたので城の空中庭園に降り立ったラスたちはそこから彼らが慌ただしく家財道具などを運んでいる姿を見降ろしていた。


「遠くて顔は見えないけど、みんな嬉しそうだね!コーも嬉しい?」


「まあ嬉しいっつーか俺はここを再建しねえとカイに結婚反対されるとこだったからそりゃもう必死だったし!ま、小僧が居たからかなり楽だったけどな」


リロイの功績を素直に認めたコハクの腕に抱き着いたラスは、城の高さよりは低いが見たことのない構造の細長い『マンション』のバルコニーに出てこちらに手を振っている人々に手を振り返した。


「じゃあ僕は皆さんを手伝って来ます。あなたは用心のためにここに居て下さい」


「いえ、一緒に行きます。私にだってお手伝いできることは沢山あると思いますから」


「そうですか?じゃあ一緒に」


…とても愛らしく仲睦まじい2人を見ているだけで気分が浮き立ち、手を繋いで昇降口へと向かって行く姿をじっと見つめていたラスが突然声を上げた。


「あっ」


「ん!?チビ?どうした?」


「今…ベビーがお腹を蹴ったかもっ」


「マジでか!俺も触りたい!」


急いでしゃがんでコハクがラスの腹に耳をあてると、確かにぽこんと蹴った感触がして、赤い瞳が喜びに輝いた。


「蹴った!おおーっ、マジで動いた!すげえ…めちゃ感動!」


「………俺も…」


「おいでおいで。グラースも触って触ってっ」


皆から代わる代わるお腹に手をあててもらったラスは、自分の腹の中に宿る命に感激して、思わず涙ぐんで皆から笑われた。


「泣くにはまだ早い。私も早く赤ん坊の元気な泣き声を聴きたい」


「グラース…ありがとう。私頑張るねっ」


「パパもラマーズ法頑張ります!」


力んだコハクが拳を握り、少し膨らんだ腹を誇らしげに撫でたラスは、1階から上を見上げて手を振ってきたリロイとティアラに手を振り返して身を乗り出した。


「わ、おい、危ないって!」


「コー、リロイがみんなのお手伝いしてる間に書類の続きやっちゃお。私は見てるだけだけど応援してるからっ」


「おうよ、あいつが戻って来た時にはぜーんぶ片づけておいて驚かせてやる」


キスを交わした2人を見たグラースは、デスのローブを引っ張ってにやりと笑った。


「私たちもするか?」


「………いやだ」


ささっと距離を取られてにたりと笑ったグラースはデスをいじめることに喜びを見出していた。
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