魔王と王女の物語②-Chain of destiny-【完】
夕暮れに差し掛かったがまだ引っ越し作業は終了しておらず、グリーンリバーの力自慢の魔物たちが本気を出して協力し始めると、あっという間に作業が終了した。

その後は、彼らが自分たちのためにはじめた祭りが夜空を焦がしていた。

目覚めたラスは酒や食べ物を手に楽しそうにしている彼らを見ると、きらきらした瞳でコハクを見上げたが…


「だーめ。あんなとこ行ったらもみくちゃにされて転んだりしてベビーに何かあったらどうする?チビはここで見てなさい!」


空中庭園でそんな光景を指をくわえて見ていたラスががっかりしたので可哀そうだとは思ったが、コハクとて家族が増えることを心待ちにしている。

もし万が一何かあった時のためにいつも以上に過保護になっている気持ちが分からないでもないラスは腰まで届く長い金の髪を編み込みにしながらため息をついた。


「うん…わかった…。仕方ないよね…でもみんな楽しそうで良かったね」


「そだな、あとはリーダー投票だろ。今週末にでも始まるらしいしその時またここに来ようぜ」


コハクに頭を撫でられたラスがなんとか我が儘を呑み込んでベンチに腰かけて脚をぷらぷらさせていると、そこにようやくリロイたちが合流したのだが…

その手には大量の食べ物と飲み物を持っていたので、あまり庶民の食べ物を食べたことが無いラスのテンションは一気に上がった。


「美味しそう!」


「そう言うと思って買ってきたよ。あまり香辛料の強くないものを選んで来たけどどうかな。みんなで食べよう」


みんなで芝生の上に腰かけて輪になり、調達してきた食べ物をティアラ皿に分けて配る中、ラスはずっとコハクの手を握って揺らしてうきうきしていた。

小さな頃から変わらないラスの笑顔が大好きなコハクは、この笑顔が絶えないように楽しい日々を送ろうと決めている。

きっとあの問題さえ解決できれば…そんな日々が送れるはずだ。


「はいコー。一緒に食べよ」


「おう。チビ、あーん」


口を開けたコハクの口に大量のマッシュポテトを投入したラスは今度はそれを自分で食べてみると、普段城の中では絶対に食べれないであろう素朴な味に感激して拳をぶんぶん振った。


「美味しい!」


「俺が作った料理の方が美味いし!あ、チビ、酒は飲むなよ」


甲斐甲斐しくラスの世話をしているコハクの姿は見ていると微笑ましい。

リロイとティアラも1つの皿を2人で使っていたが、デスとグラースは別だ。

デスは目にも留まらぬ速さで食べているし、グラースは逆に食べ物を口にせず飲んでばかり。

…みんな癖がありすぎる。


「ここはもう立ち直った。次は影…お前とラスの結婚式だけだな」


「は?なんか忘れてね?」


リロイがきょとんとした顔をした。
< 559 / 728 >

この作品をシェア

pagetop