魔王と王女の物語②-Chain of destiny-【完】
「ラス…俺は本当はとっても悪いヒキガエルなんだケロ。今まで沢山悪さしてきたケロ」


「うん、でも私を助けてくれたことは確かだし、それに…ふふっ」


「?なんだケロ?」


今までの悪事を反省して燕の傍らで正座していたヒキガエルが顔を上げると、ラスはヒキガエルの手の水かきを突きながら誰もがうっとりする笑顔を浮かべていた。


「それに可愛い!ヒキガエルさんは全然怖くないよ。最初っからいいカエルさんだったもん」


「な…っ、やめるケロ!恥ずかしいケロ!」


そういえばこのヒキガエルは誰とも仲良くなることなく沼に住み着いたが…ウサギたちはヒキガエルを信頼しているラスを信頼し、ため息をついた。


「仕方ないな、じゃあヒキガエル…お前も乗れよ」


「ありがたいケロ。ラスとコーを会わせてあげるケロ!」


そしてみんなで翼の背中に乗り込み、燕が肩越しに振り返るとピィと鳴いた。


「すぐに着くよ。しっかり捕まっていてね」


「うん、わかった!」


ふわっと浮かび上がり、風がラスの金の髪を思うが儘になぶる。


瞳を開けていられなくなり、景色を見る余裕もなく、自分よりも小さなウサギとリスが落ちないようにしっかり抱っこすると上体を燕の背に押し付けてしがみついた。


「お嬢さん、もう見えて来たよ」


通常サイズの燕ならばあっという間の距離に四精霊の城はあり、その城は…もちろん通常サイズだ。


球状のレトロな柱が幾つも立ち並ぶ城…というよりは宮殿は山のような大きさで、ラスはこの時ようやく瞳を開けて宮殿の上で旋回する燕の背から見下ろした。



「ここに…コーが…?」



小さなラスが、小さく呟いたその声――


その声を決して聞き逃さない男が、庭側の窓を全て開け放たれた部屋から飛び出て来た。



「…チビ?」



――優しく、やわらかくそう呼んでくれる男は、この世界にたった1人だけ。



「コー!!」



ありったけの声を振り絞って叫んだ。


聴こえるはずのないほどに小さな声だっただろうに、真っ赤な瞳をした男が…


コハクが、こちらを見た。


見て…笑った。
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