魔王と王女の物語②-Chain of destiny-【完】
その後グリーンリバーに戻ったコハクたちはそれぞれ就寝の途についたが、ティアラは朝までほとんど眠れずにリロイの腕の中で寝たふりをしていた。

…こうして抱きしめてくれるだけでも幸せだと思っていたけれど、どんどん求めてしまう――

潔癖な心のリロイを悩ませて惑わせて、不毛な関係を続けさせてしまっていることには本当に心が痛むが…それももうすぐ、終わる。

リーダー投票でクリスタルパレスのリーダーが決まればラスたちは結婚して、その後自分も結婚するのだ。


だが赤ちゃんが無事に生まれた後結婚式を行うと聴いていたので、もしかしたら自分の方が先かもしれない。


「…もう朝だわ…」


空が白みかけてきた。

考えているうちに朝になってしまい、きっと自分の目の下にはくまができているだろうと思ったティアラは、それをリロイに見られたくなくてリロイの腕の中から抜け出そうとしたのだが、ぎゅうっと抱き込まれてしまった。


「どこに行くんですか…?まだ早朝だ…。まだここに居て下さい」


「顔を洗ってくるだけです。なんだか疲れちゃってて…」


「すぐ戻って来てくださいね」


まだ眠たいのか瞳を擦っているリロイが子供っぽくてきゅんとしたティアラは、これがフォーンだったらきっと吐き気を催すだろうと些末なことを考えながらもベッドから降りてバスルームに向かうと、髪が濡れるのも厭わずに洗面台で盛大に顔を洗った。


…拭いきれない不安がある。

だがどう考えてもリロイへの想いを押し通してしまうと、リロイにも迷惑がかかる。

もし結婚した後地位を得たフォーンがリロイに仕返ししようとしたならば、庇い立てできるだろうか?


あの王子とずっと一緒に居るなんてどうしても想像できない。

それ位ならやはりいっそのこと…大切な想いを抱えたままバルコニーから飛び降りた方が幸せだ。


「…お母様…」


何故あの日記をラスに託したのだろうか?

それはどういう意味で…どういった考えで託したのだろうか?

フォーンとの結婚を望んでいるのならば、日記を手元に寄越したのは逆効果。


――バスルームから出てこないティアラを心配したリロイがドアをノックすると、バスタオルで顔を拭いたティアラはなるべくすっきりした表情に見えるように気を付けてドアを開けた。


「大丈夫ですか?」


「何がですか?リロイ、今日も皆さんのお手伝い頑張りましょうね。一緒に」


にこりと笑いかけてくれて手を差し伸べてきたリロイの大きな手を握ったティアラは、いつもの気丈なティアラに戻った。
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