魔王と王女の物語②-Chain of destiny-【完】
ラスたちがフィリアに会いに行ったのは昨日のことで、今日にはもう“いつでもそちらに行く”と書かれてあった手紙――

事の性急さに眉を潜めたティアラは手紙に目を落とした後、喜ぶでもなく複雑な表情を浮かべていた。


「フィリア様がここに来るんだよ?ティアラ…嬉しくないの?」


「嬉しいけれど…何故こんなに私に会いたがるのかしら。お母様の考えていることが読めないからちょっと不安だわ」


「単純にティアラに会いたいんだと思うよ?だから私ねっ、コーと一緒にすぐお迎えに行くから!ティアラはフィリア様をお出迎えする準備をしててね」


「そうね、じゃあお母様の好きなパイを焼いておくわ。ラス、ありがとう」


満面の笑みを返したラスはが飛び跳ねると、コハクがそれをくどくどと注意しながら部屋から出て行く。

ティアラはまた手紙に目を落としながらソファに座り、リロイから肩を抱かれると小さなため息をついた。


「憂鬱そうだ。どうしたんですか?」


「きっと良くない話を持って来ます。私がふらふらしてるから…結婚したくないと駄々をこねてお母様たちを困らせているから、きっと私を怒りに来るんです」


「そんなことないですよ、フィリア女王陛下はいつもあなたのことを想っていました。僕は身分があるのであまり言葉を交わしたことはないですが、あなたの考えていることが杞憂だっていうのはわかります」


今この瞬間が1番幸せなティアラは、テーブルに置いていた日記を胸に押し抱くと、リロイの金色の瞳をじっと見つめた。

心が通っている、と感じたのがつい最近のこと。

それからずっと幸せな気持ちでいたけれど、フォーンと結婚する身分の自分がリロイとずっと一緒に居るのは世間的にも絶対おかしい。

だから今日からはしばらく部屋を分かれた方が得策だ。


「フォーン王子は…どうするでしょうか」


「フィリア女王陛下はフォーン王子の人隣を知らないかもしれません。僕はこれはいい機会だと思いますよ。あなたが心配しているようなことは何も起こりません」


リロイに説得され、慰められたティアラはリロイの肩に顔を埋めて不安に耐えた。

――そんなティアラとは反しているのがラスだ。

きっとフィリアがティアラとリロイの仲を取り持ってくれると信じて止まないラスは、コハクの腕を引っ張り回して召喚したケルベロスの腹を撫でまくった。


「早く行こ!すぐ行こ!」


「わかったって、だからはしゃぐな!ベビーがびっくりするだろ」


どこまでも、親馬鹿。
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