魔王と王女の物語②-Chain of destiny-【完】
フォーンはフィリアの前で冷や汗をかいていた。

結婚を前倒ししたい、と考えた手紙を見てここに来たのではないことも教えられた。

では一体何をしに?


「フォーン王子…“はじめまして”というべきですね」


「え、ええ。手紙では何度かやりとりをしていましたが、実際お会いするのははじめてです」


フォーンの目が泳いでいるのをじっと見ていたフィリアは、ゆったりとしたローブの袖をはためかせながら椅子から立ち上がり、窓辺に寄ると、グリーンリバーの美しい街並みを眺めた。


「結婚の前倒しはできません。それに…ティアラが結婚を嫌がっています。娘は結婚を嫌がって死を選ぶ勢いです。…あなたはどう思いますか?」


「…てぃ、ティアラ王女は惑わされているのです。ゴールドストーン王国の白騎士に色目を使われて、マリッジブルーな心に付け入られているのです。


「…白騎士が悪い、と?」


「彼はラス王女を守るべき存在なのでは?ティアラ王女とあの白騎士は、同室なんですよ?同室なんです!一体中で何をしているのか…」


「フォーン王子」


凛としたフィリアの声に背筋を正したフォーンは、フィリアの瞳に浮かぶ鮮烈でいて激しい怒りの炎が揺らぐのを見て完全に怖気づく。

唯一の白魔法の使い手でもあり、ゴールドストーン王国に次ぐ強国の女王でもあるフィリアは、ゆっくりとフォーンに近付き、唇を震わせている卑小な男を見下ろした。


「白騎士リロイは王たる器。ですが、あなたは?リロイより上回っている点は?…フォーン王子、あなたはあなたを見つめ直すべきですよ」


にこりと微笑んだフィリアが部屋を出ていくと、どっと疲弊感に襲われたフォーンは、椅子からずり落ちた。

…ティアラが死を選ぶほど結婚を嫌がっていると聴かされてショックを受けたのもあるが、それよりも上回った怒りが身体を渦巻いた。

フォーンがそんな状態に陥ることも重々承知だったフィリアは部屋を出てひとつ息をつく。


「お前も大変だな。ま、お前の二の舞にさせたくなきゃ奔走するしかねえもんな」


「…カイとのこと?…彼は旅の間、ずっとソフィーのことを想っていたわ。2年前のリロイのように。でも人は変わるのよ。想いも変わるわ」


「俺は変わんねえけどな。チビは一生俺のもんで、俺は一生チビのもんだ。覚悟ってそんなもんだろ?」


コハクの赤い瞳が和らぐ。

腕に抱いていたラスが、コハクのさらさらの黒髪を撫でた。


…フィリアは、リロイとティアラにも、こんな風に幸せになってほしい、と心から思った。
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