魔王と王女の物語②-Chain of destiny-【完】

大切な人

「コー、起きて。ねえ、コーったら!」


ラスが隣に居てくれるとぐっすり眠れるコハクは、可愛い声の持ち主に身体を揺すられ、馬乗りになられていた。

薄目を開けてみるとそれはもちろんラスだったのだが、早朝にも関わらずすでに身支度を整えて準備万端。


「チビー…まだ超朝じゃね…?どうしたんだよこんな朝っぱらから…」


「今日はリロイが大切なことを話す日なんだよ!私全然眠れなくて…」


「嘘つけ、さっきまですぴすぴ鼻鳴らして寝てただろが」


宥めすかしても一向に身体から降りてくれないし、身体は反応するし…

仕方なくむくりと起き上がったコハクは、ラスをそのまま抱っこしてふんわり抱きしめた。


「わかったって。じゃあ先に飯食って、ケルベロスのブラッシングでもすっかー」


「うんっ。ねえコー、楽しみだね。私たちだけじゃなくって、みんなの前で話さなきゃいけないことって…なんだと思う?」


「んー、そだなー、わかんね」


実は大体の予想はついていたのだが、わくわくしているラスのためにそれを口にしなかったコハクは、その後シャワーを浴びたり歯を磨いたりして出かける準備をして朝食を食べた後庭に降り、ケルベロスを呼び出した。

最近ずっとドラちゃんばっかり構っていたので完全に臍を曲げていた魔犬は喜び勇み、デッキブラシを手ににっこり微笑んでいるラスに尻尾を振りまくる。


『チビっ、早く早く!僕をごしごしして!』


「うん、わかった。ワンちゃんの毛並みをつやつやにしてあげるねっ」


「俺もチビにごしごしされたいなー」


色ぼけ魔王はヘンタイを炸裂させながらも、ラスがケルベロスの身体中捲っている姿をベンチに座って鑑賞。

そうこうしているうちにいい時間になり、城内からリロイたちが出て来た。


…リロイの表情は少しだけ緊張していて、そういう人間をからかうのが大好きな魔王は、顎で隣を指して座るように指図した。


「…なんだ」


「なんだじゃねえだろ。おもしれえもん見せてくれるんだろうな?…中途半端なことすんじゃねえぞ」


「わかってる。…影」


「あん?」


ベンチにふんぞり返っていたコハクの赤い瞳をまっすぐに見つめたリロイの金色の瞳は眩しいほどに輝き、コハクは思わず瞳を細めた。


「今まで本当に申し訳なかった。そしてこれからもずっとずっと…ラスのことを頼む」


「…へっ、お前に頼まれなくたってそうするっつーの」


コハクは減らず口を叩きながらも、伸ばしてきたリロイの手を握り、握手を交わした。
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