魔王と王女の物語②-Chain of destiny-【完】
その頃フォーンはひたすら馬を走らせていた。

…毎度のことだが、今回もケルベロスやドラちゃんに乗って一緒に…というわけにもいかず、またもや汗まみれになりながらグリーンリバーに着いた時は、昼を回ってしまっていた。


「はぁはぁ、なんで私がこんな目に……ん?何かあるのか?」


何やらグリーンリバーの入口から人だかりが見えた。

しかも何千という数ではなく…何万だ。

およそ3万人もの人だかりが街を埋め尽くし、仕方なく街の外に馬を繋いだフォーンは、人々にぎゅうぎゅう押されながら酒を飲んでいた男の腕を掴んで問い質した。


「今から何があるんだ?]


「ああ、リロイさんがスピーチするらしいんだ。もしかしたらこの街のリーダーに立候補するんじゃないかって噂でさ、みんな集まってるんだよ」


「ほ、ほほう…。何かやるとは思っていたが…そういうことだったのか?しかしこの街のリーダーになったとしても、ティアラに見合う立場にはない。彼女もレッドストーン王国も、私のものだ」


人をかき分けながら進んで行くと、噴水のある広場の前に人々が最も密集しており、なんとか中心部まで侵入することに成功した。

人々は興奮気味にリロイの名を口にしてはざわめきが広がり、リロイの人気の高さが窺える。

プライドの高いフォーンは密かに舌打ちしながらも、さらに演台に地下用として、演台の前に立っている屈強なガードマンたちに胸を強く押された。


「これ以上は近付くな。これよりラス王女やティアラ王女も壇上に上がられる。大人しく待っていろ」


「し、失礼な!私を誰だと思っている!」


「うるさい!騒ぐと街の外に放り出すぞ!」


逆に怒られてしまって口ひげを震わせていると、人々の喧騒がぴたりと止んだ。

皆が食い入るように見つめている先には、こちらもガードマンたちに固められたラスたちの姿が。

…ラスの場合はコハクに抱っこされているのだが、リロイとティアラは肩を並べて互いに微笑を浮かべていた。


「…私にはあんな笑顔を見せたことがないというのに…」


歯噛みしていると、リロイが壇上に上がった。

ラスたちも一緒に上がったが、脇に用意されていたパイプ椅子に座り、リロイが演台の前に立つ。


「リロイさーん!」


「とうとう決断してくれたのかー!?」


再び喧騒が沸き、リロイが皆に手を振って応えた。


――リロイは静かに息を整え、瞳を閉じた。

そして、金色の瞳が開く。
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