魔王と王女の物語②-Chain of destiny-【完】
グリーンリバーに戻ったコハクたちだったが、敢えてリロイとティアラを2人きりにさせる時間を与えなかった。

目を離した好きにキスしてしまいそうなほどに熱く見つめ合っている2人を見ているだけで照れていたラスは、しきりにコハクのシャツの袖を引っ張っていた。


「ね、ねえコー、もう2人きりにさせてあげようよ。お祝いは違う日でいいでしょ?私…見てるだけできゅんきゅんしちゃう」


「俺はチビを見てるだけできゅんきゅんしちゃう!」


「もおっ、茶化さないでっ。ね、そうしよ?フィリア様もグラースもお祝いは違う日でいいでしょっ?」


一同はコハクとラスの部屋に集まっていたのだが、確かにリロイとティアラはソファに座りながらもあまり言葉を交わすことなく見つめ合っている。

だんだんコハクとしても意地悪をするのはさすがに気が引けてきていたので、ぱんぱんと手を叩いてリロイたちがこちらを見ると、ドアを指した。


「ディナーの準備までもうすぐかかるみたいだし、お前ら部屋に戻ってていいぞ。準備ができたら呼び鈴鳴らすし」


「わかった。じゃあティアラ…行きましょう」


「え、ええ」


ラスが遠慮がちにティアラに手を振ると、ティアラはリロイを先に部屋の外に出した後ラスの元に駆け寄り、両手を握った。


「ラス、私…その…これからどうなるの?まさか…今夜…」


「うん、そうだよ。ティアラ、勝負下着をつけてね。リロイをめろめろにして愛してもらってね」


そうアドバイスしておきながらもラスがもじもじしてしまい、それが伝染したティアラは口をあわあわさせながらプチパニックに陥った。


「ティアラ?どうしたんですか?」


「!す、すぐ行きます!」


にやにやしているコハクを怒鳴りたかったが、リロイがきょとんとしているので仕方なく部屋を出たティアラは、自然と手を差し伸べてきたリロイと手を繋ぎながら歩き出した。

…グリーンリバーに戻ってきたから、会話らしい会話はほとんど交わしていない。

先ほどまではあんなに気持ちが高ぶっていたのに、いざ冷静に考えると、これからまだまだいくつもの障害が待ち受けているように思えて不安になったのは確かだ。


「ティアラ…ティアラ?僕の話を聴いていますか?」


「…えっ?ご、ごめんなさい、考え事をしていて…」


いつの間にか部屋に着くと、背後でかちりという鍵をかける音がしたのでティアラが振り向く。


リロイは…まっすぐな瞳でティアラを見つめると、笑いかけた。


「やっと2人きりになれました。ティアラ…僕が…怖いですか?」


――ティアラは唇を震わせながらも、首を振った。

求めてくれている喜びに、魂が震える。
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