魔王と王女の物語②-Chain of destiny-【完】
心を手に入れたからといって、すぐに身体をも求めるのは蛮行だと思っていた。

だが白騎士の立場を捨てたリロイは、ひとりの男だ。

求愛を受け入れてもらえた今だからこそ、ティアラとひとつになりたいという思いが競り上がり、手を差し伸べた。


「…僕が…怖いですか?」


「…怖いです。だって…あなたと私が一夜をしたのは2年前のことで…それも私が無理矢理…」


「無理矢理じゃありません。直前であなたは躊躇をしましたが、僕が押し通したんです。…ティアラ」


怖ず怖ずとリロイの前に立ったティアラを抱きしめたリロイは、スローダンスを踊るように身体を揺らし、灯りのついていない静かな部屋でティアラの背中を撫でた。


「僕…がっついてますよね?こんなすぐにあなたを求めてしまうなんて…あなたを大切にしたいのに」


「リロイ…私を好きになってくれてありがとう。私…今死んでもいいくらいに嬉しい。あなたとなら本当に死んでもいいって思いました。ありがとう、リロイ…」


顔を上げると、リロイの静かな瞳の中に自分が映っていた。

それがだんだん大きくなり、キスをされようとしているのだと気付いたティアラは急にぱっと身体を離して後ずさりをした。


「ティアラ?」


「あ、あのっ、私シャワーを浴びてきます!その…汗をかいているし…」


「じゃあ一緒に入りましょうか」


「えっ!?」


くすくす笑っているリロイにからかわれているのだと気付くまで数秒を要したティアラは、耳まで真っ赤にしながらキャビネットからラスに頼んで買って来てもらった淡いピンクの勝負下着を取り出してバスタオルの間に挟むと、まだ笑っているリロイの脇をすり抜けてバスルームのドアを閉めた。


「やばいわ…リロイがもっとかっこよく見えてしまってる…!落ち着いて私!しっかりしてっ」


自分自身に言い聞かせながらも頭からシャワーを被ったティアラは、肌が真っ赤になるまで全身をくまなく洗った後、少しだけお湯に浸かると脚を伸ばして瞳を閉じた。


――2年前はじめてリロイを見た時からずっとずっと、リロイのお嫁さんになることが夢で、とうとうその夢が叶う日が来るのだ。


「リロイ…リロイ…」


何度も名を呼んでは幸せを噛み締めると、丁寧に身体を拭いたティアラは、勝負下着を手にして心を落ち着けた。
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