魔王と王女の物語②-Chain of destiny-【完】
ティアラが作ってくれたパンケーキはとても美味しくて、4枚も食べてしまったリロイが幸せそうにコーヒーを飲んでいると、ティアラが口の端についた生クリームを掬い取ってぱくっと口に入れた。


「どうでした?美味しかったですか?」


「ええ、とても。ちょっと食べすぎたので、今からランニングに行って来ます。あなたはラスたちと一緒に居て下さい」


「わかりました。私たち…きっとラスたちにからかわれますね…」


「からかわれてもいいじゃないですか。だって僕たちは…結婚するんですから」


まだ騎士道精神がまったく抜けきっていないリロイが片膝をついてティアラの手の甲にキスをして部屋から出て行った後、ティアラは身悶えしてテーブルを何度も叩いた。


「私…幸せすぎて死んでしまいそう…!」


きっとそろそろラスたちが起きてくるはずなので、ラスたちの分のパンケーキも作ってやろうと考えたティアラがキッチンへ向かう。

…その姿を曲がり角からそっと盗み見している者が居た。


「くそう…ティアラ王女もフィリア女王陛下もあの白騎士もみんな俺を馬鹿にしやがって…!ただでは済まさんぞ…!俺を馬鹿にしたことを悔やませてやる…!」


ティアラを盗み見ていたのは、クリスタルパレスでリロイと決闘した後に街からつまみ出されて這う這うの体でグリーンリバーに戻ってきたフォーンだった。

その手には鋭く光る長剣が握られていて、今まさにキッチンへ踏み込もうとした時――恐ろしく低い声がフォーンの耳朶を打った。



「誰かと思ったらチビハゲエロ王子じゃん。あ、間違えた。お前のハゲ頭は遠くから見ても目立つから間違えるわけねえか」


「ひぃっ!?お、お、お前は…」


「俺か?俺がみんなからなんて言われてるか…教えてやろうか?」



かくかくとした動作で振り向くと、相変わらず真っ黒な出で立ちのコハクが口角を上げて赤い瞳を光らせながら、凍り付いているフォーンの耳元で囁いた。


「“魔王”って知ってるか?俺はさあ、その魔王なんだぜ。で、あの白騎士だった金髪小僧と、胸のでっけえ王女は俺の天使ちゃんの親友なんだ。お前はその親友に何をしようとした?」


「さ、さあ…わ、私はただティアラ王女に最後の別れを…」


「ふうん、最後ねえ。…いいか、2度とあいつらに近付くんじゃねえ。近付くと、お前に恐ろしい呪いが降りかかる。お前の体毛という体毛が全て抜けて、手足が腐り果てる呪いだ。…嘘だと思うか?じゃあ試してやる」


「な…、お前が魔王…!?そんな…魔王は勇者カイに倒されたのでは……ひぃいっ!」


フォーンの肩や手にはらはらと何かが落ちた。

コハクはにやにやしながら手鏡を渡して悠々と去って行く。


フォーンの残り少ない頭髪は…すべて抜け落ちていた。
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