魔王と王女の物語②-Chain of destiny-【完】
ラスはその時、机に向かうとカイに送る手紙を真剣な表情で書いていた。


「そんなん書くより直接会いに行きゃいいじゃん。俺が連れてってやるし」


「ううん、お手紙書きたいの。ねえコー、お父様はリロイが白騎士をやめることを反対してたんだけど…怒ると思う?どうやって庇ったらいいと思う?」


「そんなん小僧が自分でけじめつけるだろ。とりあえずチビはベビーのことだけ考えてろよ。パパが守ってあげまちゅからねー」


すでに親馬鹿炸裂なコハクがラスの傍らに膝をついて腹に頬ずりをして邪魔をすると、反対側からデスが真似をしようとしたので、コハクのでこぴんがデスの額を強く打った。


「……痛い…」


「真似すんな!つかお前ちょっと散歩でも行って来いよ。俺チビと2人きりになりてえし!」


「………わかった…」


こっくり頷いたデスの頭を撫でたラスは、引出しからがま口のピンク色の小銭入れを出してデスに手渡した。


「これで美味しいものでも食べながら散歩しておいで。あ、別にお土産とか要らないから。ほんとだよ」


「……お土産……わかった…」


ラスがぺろっと舌を出してデスを送り出し、ようやく2人きりになれたコハクは、椅子を引き寄せてべったり隣に座ると、まだほとんど真っ白な羊皮紙を見て笑った。


「まだ全然書いてねえじゃん。それよかカイにここに来させた方がいいんじゃね?」


なんとなく放った言葉だったが、ラスの手がぴたりと止まる。

…フィリアは政務を圧してまでティアラのために駆けつけてきてくれた。

カイはどうだろうか?リロイのために駆けつけてくれるだろうか?

“会いたい”と書いたら…会いに来てくれるだろうか?


「コー、それ名案かも!1日だけでいいから…お父様来てくれるかなあ…来てくれるととっても嬉しいんだけど…」


「こんなこと言いたかねえけど、小僧はチビのために白騎士にまでなっただろ?血がにじむほど訓練してきたはずだし、俺みたくチビが小さい時から守って来たんだ。これでカイの奴が来なかったら血も涙もない男ってことだぜ」


「じゃあそんな感じで書いてみるっ。えっと…」


また真剣な表情になって手紙を書きだしたラスの髪を撫でたり頬にキスをしたり忙しくしていたコハクは、フィリアとカイが顔を合わせたらどうなるか…個人的に見てみたかっただけだ。

そんなことをラスに言うはずもなく、十数年ぶりに会う両者がどんな反応を見せるのか想像してぞくぞくしていた。
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