魔王と王女の物語②-Chain of destiny-【完】
たどたどしい文面で“明日のリーダー選の投票を見に来て”と書いたラスの手紙をドラちゃん特製の首輪に括りつけたコハクは、短い前脚をむぎゅっと踏みつけた。


「鳥よりお前の方が速いんだし、お前だけで行って来いよ。そんで返事を貰うか、カイがその場で“一緒に行く”って言うまで帰って来るな」


『…俺にメリットは?』


「はあ?メリットだあ?てめえ…たかがドラゴンのくせに…」


『俺は古竜だ。お前たち人間より遥かに高尚な存在なんだぞ。…じゃあベイビィちゃんのキスでいい。約束してくれるなら行ってやってもいい」


コハクの赤い瞳がすうっと細くなると、ドラちゃんは返事を待たずに大きな翼をはためかせて飛び去り、部屋のバルコニーからその様子を見ていたラスが呑気にドラちゃんに手を振る。


「行ってらっしゃーい」


「ラス、ちょっといい?私たち今日もクリスタルパレスに行って来るから、ラスはここに居てね。つわりがまったく無いっていうわけではないんでしょ?」


「うん、時々気分が悪くなるけど…じゃあ今日はゆっくりしてるね、明日張り切って行かなくちゃいけないもんね。ね、ティアラ、聴かせてっ。リロイはどうだったのっ?」


コハクが離れている間になんとかリロイとの一夜を聞き出そうと緑の瞳を輝かせるラスの勢いに負けたティアラは、こちらもまたリロイがフィリアに呼ばれて留守中だったので、ラスと一緒にソファに腰掛けて声を落とした。


「すごく素敵だったの。なんていうか…とても優しくて…でも時々すごく激しくて…きゃあっ、いやっ!な、なにを言わせるの、やめてっ!」


「わぁああぁ、もっと聴きたいっ!あのねあのね、コーもそうなの。すっごく優しい時とそうじゃない時があって…」


「こらー、なんの話してるんだ?俺もまぜてっ」


「あ、帰ってきちゃった!じゃあティアラ、続きはまた夜ねっ。あ…夜は遠慮した方がいい?」


「そ、そんなことないわ。じゃあまた夜に。ラス、お転婆して転んだりしか駄目よ」


「俺が居るんだし平気だっつーの。ほら、さっさと行けって」


コハクに追い出される態になったティアラが手を振りながら出て行った後、ラスは細い脚をばたばたさせながらソファに倒れ込んだ。


「なんかティアラが綺麗になった気がするっ。コーはどう思う?」


「チビのが断然綺麗だし。あーエネルギー切れたー。補給さして」


コハクにぎゅうっと抱きしめられたラスは、これからますます楽しくなるであろう日々に思いを馳せてゆっくり瞳を閉じた。
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