魔王と王女の物語②-Chain of destiny-【完】
その頃ひとりでグリーンリバーの街をぷらぷら歩いていたデスは、勇気を振り絞って愛用の黒いローブを脱いでいた。

細く均整の取れた身体だし、長い前髪のせいで表情をなかなか見ることはできないが、鼻梁は整っているし、唇の形もものすごく綺麗なのがわかるので、女性の観光客や住民たちが橋の上でぼーっとしているデスをちらちら盗み見していた。


「………面白く…ない…」


ラスたちと居るととても楽しいが、ひとりで居ると…魔界で独りで暮らしていた時のことを思い出してしまう。

もうそれはデスにとって当たり前の生活ではなく、居候としてグリーンリバーにずっと住むことができるかもしれないことが嬉しくて、橋の上にあるベンチに腰掛けて膝を抱えて座った。

だが何かの上に座ったらしく、違和感を感じて腰を浮かしてみると、一冊の雑誌が放置されていた。


「……『気になるあの人との恋愛度チェック』…?……恋愛…?」


全然ぴんときていなかったが、とりあえずページを捲ってみると、様々な項目がチェックマーク式に記されていた。



「………“一緒に居て楽しいですか”。……うん。…“その人に触ってみたいですか”。……うん。“声をかけられたり笑いかけられるとどきどきしますか”。……うん。…結果……“あなたはその人に恋をしています”。………恋…?…俺が…ラスを…?」



目を追うごとに思い浮かんだのはラスの顔。

それでも恋という単語にぴんときていなかったデスが次のページを捲ってみると、若い男女がキスをしている写真が載っていた。

時々…いや、しょっちゅうだが、コハクとラスが舌を絡めてキスをしている姿をよく見かけるし、実際眠っているラスに衝動的にコハクと同じようなキスをしたこともある。

ラスと話していると心があたたかくなるし、ずっと触っていたいと思うし…この気持ちが恋というものなのだろうか?


これは、コハクと同じものなのだろうか?


「……俺……ラスのこと…好き…。でも………魔王のもの…」


ラスの腹にはコハクの子供が宿っているし、幸せそうにしている2人の間に割って入るという考えはデスの頭の中には一切なかった。

なかったが、はじめて恋という感情を知ったデスの頬はほんのり赤くなり、膝を抱えなおして真ん丸になると、上下に身体を揺すった。


「……好き…と思う…。だから時々…身体が変に…?」


その後拾った本を熟読してしまったデスは、その本を手に城に持ち帰り、さらに熟読してラスへの想いを確かめた。
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