魔王と王女の物語②-Chain of destiny-【完】
ベビーのためにはゆったりとした生活を送ることが大切だと妊婦用の本に書いてあったので、この日は屋上で過ごしたり昼寝をしたりして緩やかな時間を作った。

コハクは終始傍に居てくれるし、こんなに幸せな時間を過ごしていいのだろうかと逆に不安になりながらも、遠くで聞き慣れた咆哮が聞こえたので顔を上げると――


「あ、ドラちゃんが帰って来たよ。……え…?コー…ドラちゃんの背中に誰か乗ってる…」


「んー、カイだろ。よかったなチビ。王の立場じゃないカイにたっぷり甘えとけよ。……あ、でも甘えすぎは駄目!俺が激怒します!…チビ、聞いて!」


元々小さな頃から“勇者カイ”に夢中だったラスは居ても経っても居られなくなり、コハクの言葉が耳に入らずにどんどん大きくなってくるドラちゃんに大きく手を振った。

ドラちゃんの背に乗るカイの姿――陽光が金色の髪をさらに際立たせ、立ったまま手綱を器用に操って屋上に着陸させると、ラスに笑いかけた。


「やあ、私のプリンセス。君に会いたくてここまで来てしまったよ」


「お父様!お父様っ!!嬉しいっ、ありがとう!」


飛びついてきたラスの腹がますます大きくなっていることに気付いたカイは、腕を組んでじっとりとした目で睨みつけてくるコハクを無視してラスを抱っこすると、ベンチに腰掛けて膝に乗せた。


「リロイが白騎士をやめたって?ま、それは二の次なんだけどね。本当は君に会いたくて来たんだよ」


「…!お父様…」


…親子なのになんだかいい雰囲気になってしまい、コハクが荒々しく近付こうとした時、ドラちゃんが不気味な笑い声を漏らした。


『ふふふ』


「…なんだよ」


『あの男、俺の操り方が上手かった。乱暴なお前とは全く違う。さすがベイビィちゃんの父親だな」


いらっとしたコハクは魔法を使って右足に重力を集中させて思い切りドラちゃんの右足を踏んで世にも恐ろしい咆哮を上げさせた。


「コー、喧嘩は駄目!」


「だってさあ…!チビ、こっちに来なさい。おいカイ、チビを返せよ。早く!」


駄々をこねて足踏みをするコハクが隣に座ると、ラスはカイの頬にちゅっとキスをしてコハクの膝に移動して首に抱き着いた。

みるみるコハクの鼻の下が伸びていくのを見ていたカイは思わず噴き出し、ラスの小さな手を握った。


「リロイが帰って来るまで今までの経緯を聴かせてもらってもいいかな?」


勢い込んで頷いたラスは、一生懸命ではあるがたどたどしい説明でコハクとカイに微笑を上らせた。
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