魔王と王女の物語②-Chain of destiny-【完】
唇と唇が軽く触れ合っただけのフレンチなキスだったが、時間にして1分超もの間それは続いた。

瞳を閉じたティアラの頬を伝う涙にもらい泣きしてしまったラスが鼻を啜ると、コハクがラスの鼻にハンカチをあててやりながら、背もたれにふんぞり返った。

先に夫婦になってしまった2人をやっかみながらも、これでラスを本気で狙う男が居なくなって大万歳だ。

さすがに誰が見ても大きく見えるラスの腹を見て口説こうなどと思う男がこの街やグリーンリバーに居るわけもなく、ほくそ笑んでいると、カイがゆっくり腰を上げた。


「さあ、そろそろ見せつけるのはやめてもらおうかな。私から話があるんだ。聴いてほしい」


神父と一言二言会話を交わした後聖壇に上がったカイは、顔を赤くしながら脇に避けたリロイとティアラにい微笑みながら、後方に居る記者たちにまで声が届くように朗々とした声で大聖堂の空気を震わせた。



「このほど聖石保有国の承認により、クリスタルパレスを王国として認可し、加盟させる方向で話が決まった。聖石自体は失われているが、聖石とほぼ同クラスの力を持つ水晶があるので、ここに魔物も押し寄せてくることはないだろう。これよりクリスタルパレス王国はリロイを王に。ティアラを王妃に据え、王国の冠を掲げる決意と、人々の生活を豊かにすることにまい進するように」


「陛下…ぼ、僕が…王にですか…!?」


「そうだよ、君は私と同じ立場になったんだ。これから敬語で話すのはやめるように」



くすっと笑ってウインクしてきたカイが今しがた言った言葉が未だ頭の中で整理できていないリロイがぽかんとしていると、後方に座っていた記者たちが特ダネを手に外に飛び出して行った。

きっとこの話もあっという間に街中に広がり、彼らは再び歓喜に包まれるだろう。

ありとあらゆることをおぜん立てされたリロイとティアラが顔を見合わせていると、ラスがしきりに小さな声で声をかけ続けてきていたことに気が付いた。


「リロイ、抱っこ!ティアラを抱っこして外に行ってみんなにお祝いしてもらって!私っ、準備してくるからっ」


ラスが焦ってこけることだけは避けたいコハクがラスをさっと抱っこして小走りで外に出て行き、聖壇の前に立っていたカイが頬杖を突きながら、扉を指した。


「さあ行っておいで、リロイ国王」


国王と呼ばれたリロイの顔にようやく笑みが零れ、ラスのリクエスト通りティアラを抱っこして大聖堂を出るために扉に向かった。
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