魔王と王女の物語②-Chain of destiny-【完】
馬車が城へ向けて出発してそれを見送っていると、はしゃぎすぎて疲れたラスが少し重たい息をついたのをコハクは見逃さなかった。

今夜は国を挙げてのパーティーが催されるだろうし、それに参加する予定だったが…もう十分なはずだ。

クリスタルパレスは王国に加盟し、今後ますます発展して移住を求める者も増えて来るだろう。

新王のリロイは政務に慣れず苦労するだろうが、彼の人柄ならば孤立することもないだろうし、何より頼りになってやれることもできる。

今は、ラスを連れ帰るのが得策だ。


「チビ、帰ろうぜ。身体がきついんだろ?パーティーなんか出なくたっていいだろ、人酔いしてもっと疲れるだけだし、帰ろう」


「でも…今日は結婚式なんだよ?とってもおめでたい日で…」


パーティーには参加したがるが明らかにきつそうな顔をしているラスを抱っこしたコハクは、カイとフィリアに向き直って城の方を顎で指した。


「ドラを置いて行くからそれに乗って帰れよ。小僧とボインは明日俺がちゃんとレッドストーン王国まで連れて行くし、心配すんな」


「ええ、助かるわ。…魔王」


声を落としたフィリアは、コハクに近寄ってラスの金の髪を撫でてやりながら、今までの禍根を思い出しつつも感謝の意を述べた。


「カイとオーフェンと共に魔王城へ向かった時の決意…私が胸に受けた傷…今までずっとあなたのことを憎んでいたけれど、もう忘れることにするわ。だって今のあなたからは全く悪意が感じられないし、むしろ穏やかよ。人って変わるものね」


「それ誉めてんのか?ちぇっ、なんか馬鹿にされた気分だな」


「違うよコー、フィリア様はコーが優しい人になったことを誉めてくれてるんだからいじけないで」


人ごみをかきわけてクリスタルパレスの入り口に着いたコハクは、ケルベロスを召喚してひらりと跨ると、首に抱き着いてきたラスを抱え直した。

むにゅっとあたる胸にでれでれしながらカイに軽く手を振り、カイとフィリアが振り返すとケルベロスが飛び立つ。


『魔王様ー、チビの子供はいつ生まれるんですかー?生まれたら舐めて味見してもいい?』


「ふざけんなそんなことしやがったら舌引っこ抜いて頭も1つ落としてやるからな。チビ大丈夫か?すぐ着くからな」


笑って頷いたラスの腹に手をあてると、掌にぽこんと跳ね返すような感触がした。

そして…隣を疾走する黒い馬に跨ったデスが唇を尖らせているのを見たコハクとラスは、デスを置いて来てしまっていたことに今さらながら気が付いて、声を上げて笑ってしまった。
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