魔王と王女の物語②-Chain of destiny-【完】
笑みを消してぎゅっと抱きしめてくるコハクの背中に腕を回したラスがじっとしていると、コハクが耳たぶにキスをして震える息を吐いた。



「不死の魔法が失敗したら…チビが死んでしまったら…?最近ずっとそんな考えが頭から消えねえんだ。だから…俺の不死の命をむしり取れる方法があるんじゃねえかってずっと探してた。…チビに先立たれたくねえんだ。ましてや俺が失敗して死んでしまったら…」



苦悩して唇を噛み締めるコハクの表情は本当につらそうで、やっぱり自分が原因で悩んでいたのだとわかったラスが…くすくす笑い出した。

身じろぎして身体を離したコハクが眉を潜めると、ラスはコハクの両頬を両手で挟んで変顔を作ってまた笑った。



「…チビ…?俺は真剣な話をして…」


「うん、知ってるよ。どうしたのコー、いつも自信満々のコーはどこに行ったの?失敗するかも?私が死んでしまうかも?そんなことあるわけないでしょ、コーを置いて死んだりしないから。だって私はコーを信じてるもん。コーは違うの?私のこと、信じてないの?」


「ちが…っ、信じてる。だけど俺は俺自身を信じ切れてねえんだ。だって…はじめて使う魔法だし、お師匠にかけられた時に1度見ただけで…俺が失敗してチビが死んだらって思うと…脚が竦むんだ。不安で…最近ほとんど眠れねえし…」



最近、一緒に寝ている時にコハクが急に起き上がって荒い息を吐いているのを見たことがある。

…今思えば悪夢にうなされていたのだろうコハクが神経をすり減らしながら地下室で“死ぬ方法”を探していたこと自体に強い怒りを覚えたラスは、コハクの両頬をぱちんと叩いた。


「失敗なんか絶対しないから。コーは今まで魔法を使おうとして失敗したことがあるの?失敗しそうなの?」


ラスに問われたコハクは、長い生を振り返って考えた。

…失敗したことは、ほとんどといっていいほど、ない。

ただ自らの妄想に襲われて、不安に駆られて仕方ないだけだとわかっていつつも、“もし”と考えてしまうとどうしようもなく恐怖を感じてしまうのだ。

だが…今腕に抱きしめているラスは、少し怒った表情をしていながらも自分を信じて疑っていない瞳をしていた。



「ねえコー、不安なのはわかるけど、私は全然不安じゃないことを覚えててね。私とずーっと永遠に生きていきたいなら…諦めないで。今のコーを見てると、もう諦めてるみたいに見えるよ」


「!そんなことねえよ!俺はチビとずっと一緒に居たいんだ。…ごめん、俺って天才だったよな。こんな不安…おかしいよな」



なんだか胸につかえていたものがすうっとなくなったコハクは、ラスに不安を吐露したことで安堵した表情を浮かべると、大きくなったラスの腹を撫でて壊れないように抱きしめた。
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