魔王と王女の物語②-Chain of destiny-【完】
1日に1度だけ…

ラスの姿を見れるチャンスが訪れる。


それは晴れた日に限り、太陽が最も高く昇る時間帯だった。


リロイとカイはその時が訪れるのをバルコニーからひっそりと見守っていた。


「…ラスとは会えたかい?」


「…いえ。今日はラスの誕生日です。日が変わったと同時に部屋を訪ねたのですが…会わせてもらえませんでした」


「盛大なパーティーを、と思っていたけれど…無理だね。ここ2年間私たちはラスの笑顔を見れていない。どうしたらいいのか…」


カイが苦悩し、リロイが唇を噛み締めた時――ラスが現れた。


白いドレスを着たラスが、白い息を吐きながら雪の積もっていない中庭を歩き、立ち止まった。


――俯き、じっと見つめる先には…


ラスの影しかない。


口が動いているので何かを話しているのは間違いないが…これ以上近付くと、見ていることが知られてしまう。


ラスがこの時間をとても大切にしているのはわかっている。



影――恐らく…影に何か話しかけているのだろう。



「痛々しい…。もう魔王はラスの影には居ないのに…!」


部屋の中に引き返したリロイはそう吐き捨てて拳が真っ白になるほどに握りしめ、やり場のない想いをぶつけることもできずに瞳を強く閉じた。


「あの子は綺麗になった…。魔王があの子を綺麗にしたのか。小さかった私のプリンセスを、あんなに綺麗に…」


――かつて残虐非道だった魔王…コハクを倒しに魔王城に訪れた時――


何故かコハクは自分を見て嬉しそうに笑ったのを覚えている。


『俺を殺しに来たのか。不死の俺を殺せるか?できるならやってみろ。ていうか、やれ』


死を渇望し、力を振りかざすこともなく、剣の稽古に付き合っているかのような足取りと手取りで翻弄され…


全力ではないコハクを倒した後、“勇者”と言われてゴールドストーン王国を継いだが…


コハクは、皆が思い描いているような“悪”ではなかった。


だからこそラスもコハクに懐き、そして惹かれていったのだろう。


「今日だけはあの子と共に食事をしたい。…行って来るよ」


娘に会いに。
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