魔王と王女の物語②-Chain of destiny-【完】
「きゃーっ!誰か、助けてーっ!!」


朝陽が差し込む中、突然聞こえた大きな悲鳴に飛び起きた小さな勇者たちは、目を擦りながら顔を見合わせた。


「今のは…ママの声…!?」


「あっ、エンジェルが居ない!外から聞こえた!バルコニーに出てみよう!」


わたわたしながらバルコニーに飛び出た小さな勇者たちは、想像もしていない光景に固まってしまった。


「ま、ママ!」


「ドラ!何やってるんだ、ママを離せ!」


――大きな翼を悠然とはためかせて風を巻き起こしている真っ黒なドラゴン…ドラちゃんの鉤爪の中には、小さな勇者たちが世界一可愛くて綺麗だと思っている母親のラスの姿。

そしてドラちゃんの傍らには、真っ黒な馬に跨っている死神のデスの腕の中で眠っているエンジェルの姿。

いきり立った小さな勇者たちが大声を張り上げると、ドラちゃんは口の中にたゆたう炎を見せつけながら笑った。


『今まで大人しくしていたが、もう限界だ。ベイビィちゃんには俺の卵を生んでもらう。俺を止めたければライナー山脈の北にある火山まで来い』


「………来い」


デスが付け加えたように言うと、ラスが小さな勇者たちに手を伸ばして助けを求めた。

かっとなった小さな勇者たちは、首に下げられた水晶のネックレスの力を借りながら体内を巡る魔力に呼びかけて、得意の炎の魔法をドラちゃんにぶつけたが、暴風で呆気なく掻き消されてしまった。


「魔王は!?魔王はどこに行った!?」


『ふはははは、ガキ共め、さらばだ!』


「…………さらばだ…」


ドラちゃんは父であるコハクと契約を交わしたドラゴンで、今まで散々遊び相手になってもらっていたのに、ラスを手に入れるために虎視眈々とチャンスを待ち続けていたのだろうか?

エンジェルはデスにとても懐いていて、だがまさか…まだあんなに小さいのに、あの死神…


「デスめ…あいつやっぱりロリ…」


「そんなことより魔王が居ないから僕たちがママとエンジェルを救い出さないと!準備しよう!えーと、食料と装備と……あ、テーブルの上に地図があった!…あれ?リュックの中に食べ物が入ってる…」


自分たちが用意したわけではないのだが、ベッドの枕元には愛用の黒いリュックが2人分置かれてあり、慌てて服に着替えた小さな勇者たちは、今度はおもちゃの剣ではなく、殺傷能力のある剣を手に真剣な顔つきになった。


「よし、僕たちがママとエンジェルを救うんだ!頑張るぞ!」


「頑張るぞー!」


小さな勇者たちの冒険がはじまった。
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