魔王と王女の物語②-Chain of destiny-【完】
食料を詰めたリュックサックはもちろんラスが用意してあげていたのだが、とにかく早く火山に出発しようとしていた小さな勇者たちは、それを完全に失念していた。


「ほら行くぞ!もたもたしない!」


「ねえ、お金も入ってるよ。長い旅になるの?僕自分の枕じゃないと眠れなくて…」


「いいから早く!こんな時に魔王はどこに行ってるんだ!?ママにドラゴンの卵なんか生ませるもんか!」


兄は行動派でとにかくすぐ発ちたかったのだが、弟の方はどちらかといえばラスの性格に似ていておっとりとしている。

弟の手を引っ張って先を急いだ兄の勇者の方は、リュックの中を素早く確認して紙に“ライナー山脈北の火山にすぐ来い!”と殴り書きをしてテーブルの上に置いた。


「魔法を使って行くぞ。この前探検に行った時に仲良くなった大鴉を呼ぶから、街の外まで急げ!」


度々探検と称してグリーンリバーの外に出ていた小さな勇者たちは、知恵と連携と魔法と剣を駆使してレベルの高い魔物を倒したり、服従させて言うことを聞かせたりすることができるようになっていた。

時々2人で地下の実験室に忍び込んで魔法の書を読み漁ったり剣の練習をしたりして、歳相応ではない遊びばかりしてきていた2人は、燃えに燃えていた。


「あっ、どちらに行かれるんで?!」


「魔王こそどこに行ったんだよ!ママとエンジェルがドラに攫われたから取り戻しに行くんだ!魔王が帰って来たらそう言っとけ!」


改造済みの魔物たちがなんとか2人を捕まえて行かせまいと奮闘していたが、彼らはするすると腕を擦り抜けて城から脱出すると、息を切らしながら街の外を目指す。

また街も中も彼らにとっては庭のようなもので、最短ルートで街の出入り口に着くと、兄の方が唇に人差し指と中指をあてて、甲高い口笛を吹いた。


「早く来ないと風切り羽を落とすぞ!」


『ちょ、今今今!今行くでやんすー!』


左の森から巨大な真っ黒の大鴉が姿を現すと、小さな勇者たちは巻き起こる風に顔を両手で庇いながら大声を張り上げた。


「俺たちを北の火山まで連れて行け!今すぐにだ!」


『入り口までですよ!あそこは炎属性の魔物がうようよ居ますから気を付けて!』


「よーし!お前は心配するな。お兄ちゃんに任せておけ!」


「うん、わかった!」


弟を勇気づけながら一緒に大鴉の背中に飛び乗った小さな勇者たちは、一路炎の吹き上げる火山へと向かった。
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