魔王と王女の物語②-Chain of destiny-【完】
ラスとエンジェルが攫われたという火山は活火山で、山頂からは絶えず噴煙が上がり、麓には洞窟の入り口のような穴があった。

とにかく雷や噴煙がすごいので、兄の方が独学で覚えた結界を2人分張り、不安そうな顔をしている弟を励ました。


「よし、行くぞ!いいか、強そうな魔物が出てきたら隠れるんだ。お兄ちゃんがなんとかしてやるから」


「うん…わかった。無理しないでね、僕…エンジェルもママもお兄ちゃんも居なくなるなんて、やだ…」


顔を歪めて同じ赤い瞳を潤ませた弟の頭を撫でた兄は、勇者として恥じないように胸を張ると、弟の手を引っ張って洞窟内へと入って行く。

中は熱気で肺がやられそうなほどに暑かったが、結界のおかげでなんとか進むことができる。

こういった暑い場所はドラゴンが好んで住むことがあり、辺りをよく見回してみると、魔物が徘徊している姿が目に入った。


「こんなとこ俺だって好きで来たんじゃない。でもママとエンジェルを救わなきゃ。役に立たない魔王のために、俺たちが勇者としてママたちを救うんだ」


「うん!」


――小さな勇者たちが奮起して掛け声を上げていた頃、洞窟の最奥ではコハクが暑さを全く通さない大きな結界を張って、ラスの影の中に突っ込んでいたテーブルやソファや椅子を設置して寛いでいた。

ただ残念なのは…


目が覚めたエンジェルが、ずっとデスの隣にへばりついて離れないことだ。


「黒いの、私を攫ったのー?」


「………うん。……お姫様…攫った…」


「攫ってお嫁さんにするのー?」


「…………」


コハクが射殺すような瞳で睨みつけると、デスは黙ったままそれには答えず、結界内から出て行こうとしていたラスを指差した。

慌てたコハクがラスの腕を引っ張って引き留めたが、ラスとしては小さな勇者たちがこんな最奥まで無事にたどり着けるとは思っていない。

とても仲が良くて微笑ましい兄弟が、もしかしたら泣きながらここまでやって来たのかと思うと、今回の作戦は失敗だったのかもしれない、とラスの方が泣きそうになっていた。


「コー、心配だよ…」


「だーいじょうぶだって。さっきから俺がずっと千里眼で監視してるし。マジでやべえことになったらちゃんと助けに行くからさ」


「ほんと?うん…信じてるよ、コー」


頬にちゅっとキスをされて口元が緩むのを抑えられない魔王は、いちゃいちゃしているように見えるデスとエンジェルから目を離さずに、千里眼で小さな勇者たちを見守り続けた。
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