魔王と王女の物語②-Chain of destiny-【完】
「エンジェル、パパのお膝においで!」


小さな勇者たちが最後の一本道の前に現れた時、コハクはデスの膝の上で脚をぷらぷらさせていたエンジェルを呼び寄せようとして必死になっていた。

だがエンジェルはいやいやと首を振り、コハクが悲しそうな顔をすると、エンジェルはコハクの隣に居たラスに微笑してそっと首を振られて、デスの膝から降りた。


「パーパ?泣いちゃう?よしよしする?」


「よしおいで、パパは泣いたりしないぞー。ちょっとだけお昼寝しような。癪だけど、デスに抱っこしてもらっておいてやるからな」


「パーパがしてくれないの?」


デスのことも好きだが、面白くて優しいパパのことも大好きなエンジェルが瞳をうるうるさせると、コハクは少し罪悪感に苛まれながら、エンジェルの額に手をあてて笑いかけた。


「後でいやってほど抱っこしてやるから。パパはこれからちょっと忙しくなるんだ」


するとエンジェルの瞳がとろんとして、眠りに引き込まれたエンジェルを溺愛しているコハクはしばらくの間べたべたして頬をぺろぺろしていたが、鼻に皺を寄せつつデスにエンジェルを渡した。


「てめえしっかり悪役して来いよ。言っとくけどちゃんと手加減しねえと俺が黙ってねえからな。ドラ、お前もだからな」


コハクの赤い瞳が久々に凶悪な光を湛えると、1人と1匹は密かにぞっとしながら頷く。

ドラちゃんは小さな勇者たちやエンジェルの遊び相手になってきてやっていたが、ドラゴンの中でも古竜で知性のあるドラゴンだ。

いつも口の中をちょろちょろ駆け回って遊んでいた子供たちにもそれなりの愛着があったので、もちろん手加減するつもりではいたが…久々の悪乗りに嬉しそうに尻尾を振っていた。


『来た。ベイビィちゃん、俺の手の中に』


「うん、わかった。コー、絶対絶対助けてあげてね。子供たちに危ないことがあったら…」


「わかってるって。じゃあ俺は姿隠しとくから。でも見てるからな。変な考え起こすんじゃねえぞ!」


デスとドラちゃんを何度も脅迫しながら名残惜しげに何度も振り返りつつ魔法で姿を消したコハクに手を振ったラスは、エンジェルとデスとドラちゃんの頭を撫でてやりながら極上の笑顔で笑いかけた。


「じゃあ程々にね。私頑張って叫び声上げるから」


ドラちゃんの鉤爪の中に収まったラスの視界に、小さな勇者たちの姿がはっきりと見えた。
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