魔王と王女の物語②-Chain of destiny-【完】
ドラゴンの炎を浴びれば一瞬にして灰になってしまう――

ドラちゃんが大きく息を吸い込んだので、それで炎を吐くのだと分かった兄は、地面を転げてドラちゃんの軌道から逃れた。

直後にものすごい熱気と共に吐き出された炎はじりじりとデスを追いつめていた弟の方にまで及んでしまい、兄は舌打ちをして赤い瞳をぎらつかせた。


「ごめん!火傷してないか!?」


「大丈夫!お兄ちゃん頑張れ!」


いつの時も励ましてくれる弟のおかげで勇気が出た兄は、結界の外から出ることができずに頬を強張らせて見守っているラスをちらっと見ると、こんな時に不在のコハクを罵った。


「こんな時に…あいつが居れば…!」


『ガキめ、お前たちなどこの溶岩の奈落の下に突き落としてやる』


直立していたドラちゃがどしんという大きな音を立てて四つん這いになると、尻尾と太い前脚で、地面を足踏みし始めた。

それだけで身体が跳ねてしまうほどの衝撃が伝わり、よろけながらもなんとかドラちゃんに近寄って剣で攻撃してみるものの、真っ黒で固い鱗は何をも通さずに甲高い反射音を発して攻撃を拒む。

また弟の方も、相変わらず無防備でじっと見つめてくるだけのデスに不気味なものを感じて攻撃することができず、ドラちゃんの振動にバランスを崩して立てずにいると――


「………俺……悪い………」


「え?……うわ…っ」


デスがゆっくりと右腕を頭上に伸ばした。

それを追って弟が視線を上げたが、その時にはすでに、デスの手に真っ白で鈍く光る死神の鎌が握られていた。

あれで攻撃されれば死んでしまうと書物に書かれていたし、いくらなんでもまさか子ども相手に死神の鎌など持ち出さないとたかをくくっていたのだが――


「や、やめろ、来るなっ」


「……」


デスが1歩1歩近付いてくる。

弟のピンチにすぐ気が付いた兄は、ドラちゃんに歯が立たないことを悟ると、すぐに駆け寄って弟を背に庇い、デスを睨みつけた。


「俺たちに手を出したら…魔王が黙っていないぞ!」


「…………関係…ない…」


「ママだってエンジェルだって、お前を恨むぞ。それでもいいのか!?」


一瞬デスの脚が止まったが、再び前進を始めると、小さな勇者たちは崖まで追い詰められてしまい、はじめて死の淵に立たされて抱きしめあい、瞳を潤ませた。


頭に浮かんだのは、意地悪だけれど強くてかっこいい父親・コハクの姿。



「…助けて…パパ……パパぁーっ!!」


「今、パパって呼んだか?」



ヒーロー、登場。
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