魔王と王女の物語②-Chain of destiny-【完】
ラスが迎えに来たのだとわかると、まだもうちょっと眠っていたいエンジェルは、ラスに手を伸ばして抱っこしてもらおうとした。

…が、それよりも先にラスに近付いたのは…デスだ。


「……いい子……してた…」


「うん、エンジェルは寝相いいから心配してなかったよ。デスもいい子いい子」


ラスが背伸びをしてデスの頭を撫でると、エンジェルがぼうっとしている中――デスがラスを抱きしめた。

直後にぱっちり目が覚めたエンジェルはその光景に嫉妬を覚えて、荒々しくベッドから降りると、デスの腰に抱き着いて身体を揺らした。


「やーだ、マーマを抱っこしないで!」


「挨拶のハグをしただけだよ。もうエンジェルったらやきもち焼きなんだから。そういうとこはパパに似たのかな」


――ラスのことはものすごく大好きだけれど、デスはラスと会っている時…見たことのない表情を浮かべる。

自分には見せたことのない笑顔をラスに向けて、誰かに身体を触られるのを嫌がるくせに、ラスに触られると嬉しそうにしている。

…ラスは悪くないのに、少しだけラスのことを嫌いになってしまって自己嫌悪に陥ったエンジェルは、ラスに頭を撫でられたが、その手を振り払って部屋を飛び出した。


デスを怒るだけ怒って先に部屋を出ていたコハクがソファに寝転んでいるのを見つけたエンジェルは、コハクの腹によじ登ってうつ伏せになると、顔を隠して肩を震わせた。


「エンジェル?どした?まだ眠たいのならパパが添い寝してやるぞー」


「…パーパはマーマを捕まえてなくていいの?」


突然そう言って鼻をぐずらせているエンジェルが何を思っているのか、勘付きたくなくても勘付いてしまったコハクは、内心盛大なため息をついて、大切な愛娘の背中を擦ってやった。


「ママはな、捕まえたと思ってもいつの間にか腕の中から居なくなっちまうんだ。だからパパはママを捕まえるのに毎日必死ってわけ。エンジェルもいつかは大勢の男に追いかけられて…ぐすっ」


もらい泣きしたのかコハクも鼻をぐずらせてしまうと、エンジェルはラスに謝ってこようと思い返して起き上がろうとしたが、ラスの方が先にエンジェルを追いかけて部屋に現れた。


「マーマ……ごめんなさい…」


「どうして謝ってるの?エンジェルは素直で可愛い子だよ。さっきはママが悪かったの。デスを独占しちゃってごめんね」


「…マーマ…」


ラスに抱き着いたエンジェルは、コハクに髪をくしゃくしゃにされて嗚咽が止まらなくなってしばらくの間泣き続けた。

デスは部屋の外でエンジェルの泣き声を聞いて心がざわざわして、動揺して、部屋に入れずにいた。
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