魔王と王女の物語②-Chain of destiny-【完】
すっかり元気がなくなったエンジェルはソファに突っ伏したまま起きる気配がなく、最初は心配して傍についていた小さな勇者たちは、エンジェルの隣に座っていたラスに笑われてぽうっとなった。


「エンジェルはママに任せて外で遊んでおいで。パパも今街に出てるから」


「はーい!じゃあ邪魔してくる!」


妹のことは気がかりながらも外に突っ走って行った小さな勇者たちに手を振ったラスは、手を握ったまま動かないエンジェルの金色の髪を撫でた。


「デスを呼んで来ようか?」


「……ううん、いい。マーマ…私…マーマみたいになりたいな…」


「なれるよ、だってママの子供だもん。もっと大きくなったら絶対ママそっくりになるから大丈夫。エンジェルったらまだまだ赤ちゃんだね」


「きゃーっ、マーマ、くすぐったいぃ」


ラスにわき腹をくすぐられて容赦なく笑わされたエンジェルにようやく笑顔が戻ってほっとしていると、ドアがこっそり開き、ひょっこりと顔を出したのは、エンジェルがずっと待っていたであろうデスだった。


「デス、入っておいで」


「………泣き止んだ……?」


「うん、泣き止んだよ。このままお昼寝させようかな」


泣いていたのを知られて恥ずかしくなったエンジェルがラスの背中に隠れる。

その間にデスは足音もなく自然にラスの隣に腰かけると、エンジェルはまた涙目になってその光景を見ないように瞳をぎゅっと閉じた。


…やはりデスはラスを好きなのだと感じたし、こんな小娘から結婚の約束をされても、これこそおままごとの約束だったに違いない。

そんなおままごとの約束を信じて浮かれていた自分が馬鹿らしくなって、むくりと起き上がったエンジェルは、ラスの制止も聞かずに部屋を出て花が咲き乱れる中庭に出た。

すぐさま周りには妖精たちが集まり、優しい声をかけてくれる。

デスのように膝を抱えて座っていると、隣に誰かが座った気配がして顔を上げた。


「…黒いの……マーマの傍に居なくていいの?」


「………よしよし…」


言葉少ない死神が、骨だけの指で頭を撫でてくれる。

少し垂れた黒瞳が大好きで、その瞳の中に自分が映っている…独占していると感じると、また瞳に涙が溜まってしまった。


「………俺…泣かれると…困る……」


「泣いて、ないもん…っ。馬鹿っ、黒いのの馬鹿ぁ!」


精一杯詰ったが、デスは骨の人差し指で涙を払ってやると、小さなお姫様を膝に乗せて抱きしめてやった。

エンジェルは、デスを独占していることに胸がはちきれんばかりに喜び、身体を預けた。
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