魔王と王女の物語②-Chain of destiny-【完】
「コー…本当は私の影の中に居るんでしょ?黙ってるだけでしょ?」


陽が高く昇り、大地にできた自分の影に向かってラスが呼びかける。


魔王城で気を失い、この城で目覚めた時――衝動的にバルコニーから飛び降りそうになった自分を押さえたのは…リロイだった。


『ラス!死んじゃ駄目だ!』


『触らないで!コーを殺した手で私に触らないで!!』


それからの半年間…部屋から出ることはなかった。

話すのはグラースとだけ。

部屋で食事をし、後の時間は全て全て…神に捧げてきた。



「神様…神様…居るのならコーを私に返して下さい。私のコーを返して…」



その後の半年間はようやくベッドから這い出て、グラースから様々な教えを習った。


深夜になり、部屋から抜け出ると2人でキッチンに潜り込み、密かに料理の練習もした。


いつかコハクがひょっこり現れた時に自分の手料理を振舞いたい――


なかなか上達しなかったけれど、グラースは根気よく教えてくれた。

指は傷だらけになり、そういう時はいつもコハクに魔法で治してもらっていたことを思い出してまた涙して――


その繰り返しをしながら2年が経ったのだ。


「コー…私…18歳になったんだよ。きっと私を見たらびっくりするよ。あのね、背も伸びたの。胸もね、おっきくなったんだよ」


呼びかけど呼びかけど、この2年間…影は応えてくれない。


またうるっときた時――


「私のプリンセス」


「…お父様…」


大好きだった父がやわらかく声をかけてきた。


小さな頃から大好きで憧れの勇者様だった父は少しはにかみながら目の前に立ち、同じように影に目を落とした。


「…つらい思いをしたね」


「…コーは死んでないもん。死体はなかったもん。だから…死んでないの」


「うん、そうだね。お父様もそう思うよ。ラス…泣きたい時にはちゃんと泣きなさい。お父様が胸を貸してあげるから」


「…ぅっ、おとう、さま…!」


嗚咽が込み上げてきて、カイの身体に抱き着くと子供のように大きな声で、泣いた。



「コーに、会いたいの!コーに…!」



影は、応えない。
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