魔王と王女の物語②-Chain of destiny-【完】
泣きじゃくるラスを抱き上げて城内へ戻り、背中を撫でてやりながら螺旋階段を上っていると…リロイに会った。


「ラス…」


途端ラスが顔を伏せてカイの首に回した腕に力が入り、顔を見ることを拒絶すると…カイは小さく首を振った。


「ラス、今日はお父様たちと一緒に食事をしよう。部屋に迎えに行くからね」


「…」


「君が生まれてきた日を祝いたいんだ。お母様も心配している。ラス…お願いだ」


「…うん、わかった…」


2年ぶりの愛娘との食事――


嬉しくなったカイは唇を噛み締めるリロイの横を通り過ぎ、ラスの部屋に着くとベッドの上に下ろしてやった。


するとラスは俯いたまま美しい金の髪を耳にかけながら、ぽつりと問うた。


「お父様は…コーは生きてると思う?」


「そうだね…普通なら死体は消えたりしない。ラス…魔王は簡単には死なないんじゃないかな。私でさえも倒せなかったんだから」


「…そっか…そうだよね。お父様ありがとう。大好き」


――ふわっと笑った。


その笑顔に見惚れてしまい、ラスの頬に小さくキスをすると部屋を出てすぐ脇に控えていたグラースの肩を労を労うように叩いた。


「ようやく笑ってくれた」


「笑っているが笑っていない。魔王を捜してラスの前に引きずり出さない限り、ラスは心の底から笑うことはない」


…辛辣だが当たっている。

元ブルーストーン王国の王女は近衛兵や白騎士団よりも実力があり、ラスからの信望も厚く、ラスの傍に居れるのはグラースしか居なかった。


だがカイはグラースを王女扱いしない。

それをグラースが望んだからだ。



「今夜ラスと食事をする。君も同席を」


「わかった。…リロイもか?」


「…ああ。私はいずれ…ラスとリロイを結婚させようと思っている」


「…」



リロイから正式にラスとの結婚を求められた。


魔王を倒し、“勇者”となったリロイにはその資格がある。


だがラスは…猛烈にリロイを拒絶するだろう。


「…頭が痛いことばかりだ」


魔王は今もラスの魂をがんじがらめにしている。
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