紅い月
これは、なんなのだろうか。
同級生が俳優のブロマイドを見てきゃあきゃあ言うのとはきっと違うだろう。
八重子は恋を知らなかった。
それにそんな感情は、女性である自分は男性にたいして抱くものだろうから、という考えが、八重子の胸の痛みの原因を余計にわからなくした。
「八重子さん」
八重子が振り向くと教室の扉から顔を出した千代がいた。
「ちょっとお待ちになって」
「え、ええ」
八重子は戸惑いながら答えた。
学生鞄を持った千代がパタパタと駆けてくる。
「一緒に帰りましょう」
にこりと、千代が笑った。
口元のホクロが愛らしい。
「ええ」
八重子の胸は歓喜に湧いていたが、それが千代にわかることのないように、平静を装って答えた。