紅い月
「で、その兄がね」
千代は話を続けた。
「この間、映画を観に行ってからというもの、いつもと様子がちょっと違うのよそれで話を聞いてみたら、」
―――美しい人を見かけたんだ。
「と言ったの。それでその方がどんな人だったのか詳しく尋ねたのよ。するとね」
―――すらりと背が高くて、色が白くて、髪の毛が胸の当たりまであって、そして、
あごの少し左に、黒子があった。
「…千代さん?」
八重子は自分のあごに無意識に指をそえた。
「そう。私、お兄さんが見かけたのは、おそらくあなたの事だと思うの」
「まさか、偶然でしょう?」
「それを確かめるためにもね、今度の日曜、うちにいらっしゃらない?」