My Love―お兄ちゃんとどこまでも―
「お兄さんが居るだけ、沙亜矢は幸せだよ。私はあの子が居なきゃ、逃げられずに死んでたわ」



袖に隠された光希ちゃんの腕や肩、背中や足には煙草を押し付けられた痕や、消えない切り傷が無数に残ってる。

そう考えると、自分はましだと思える。

だから我慢が出来る部分はあるけど、光希ちゃんはやっぱり優しい。

私の気持ちに気付いてくれて。

話を聞いてくれて。



「さ、コーヒー飲んだらまた頑張るかなっ」



「え?今日は夕方も?」



「そうそう。上田ーウエダーが会社にバレたとかで急に辞めてさー。本当に困った。母親は“夜までやる体力ない”とか言うし」



上田さんは確か、建築関係の会社で8時から4時半まで、受付の仕事をしてた筈。

ちゃんと就職してるから、それは仕方ないと思うけど、最初から禁止だとわかっててやって、挙げ句、急に辞めるなんて。



「私、ここに就職しようかな……。朝から夜まで雇ってくれる?」



「ダメ。沙亜矢はちゃんと良い会社に就職して、あの家を出るの。こんな安月給な場所じゃ、1人でやってけないんだから」



私の甘えた考えは、バッサリ斬り捨てられた。

良い会社って、何が基準なんだろうか。

進学する気は更々なくて、担任たちに何を言われても断ってるけど。

就職先は未だに決まらず、頭を抱えられてる。

光希ちゃんとフロアに出て、30分前倒しで私は仕事を始めた。
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