My Love―お兄ちゃんとどこまでも―
病院に着き、院内使用の車椅子でリハビリ室へと行く。

リハビリはまだ第一段階。

マッサージと、軽いストレッチ。

左足を上げられても、キープする事が出来ずにポンッと落ちてしまう。



「何か今日は、浮かない顔してますね」



「そうですか?」



初めて、担当のリハビリ師に話し掛けられた。

司馬ーシバー先生と云って、確かまだ25歳だったような。

自己紹介されたけど、年齢までまともに聞いてなかった。



「はい。悲しそうな、暗い表情です」



「そうですか」



患者のプライベートを探るように、そんな事を言ってどうするのか。

私は誰に何を訊かれても、話す相手は限る。

適当に流しながら、リハビリを受けた。



「ありがとうございました」



頭を下げて、母親と帰る。

リハビリは20分と、あっという間に終わる。



「今日は晩ご飯決めてるの?」



「ううん。1人だから」



父親と住むようになってから、自炊をするようになった。

前から出来なかったわけじゃないし、何でも“美味しい”と言ってくれる父親の優しさが嬉しくて、日課となった。

さすがに父親がフライトの日は、適当になってしまうけど。



「それじゃあ、たまには一緒に食べない?」



「うん。良いよ」 



父親は今、パリに居る。

2日前に発って、3日後の便で、帰って来るらしい。

昔はソウルやシドニー便が多かったらしいけど、最近はパリが目立つって。
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