My Love―お兄ちゃんとどこまでも―
母親に支えられながら、家を出た。
タクシーでレストランの近くまで来たものの、早くお店に着いてしまい、近くのカフェで時間を潰す。
「……藤森さん?」
すると、誰かに呼ばれた。
長年の慣れは恐ろしく、反射的に母親と声の主を見るも、私は知らない。
「あ、こんにちは!お久しぶりね?」
しかし、母親は知ってるようだ。
立ち上がり、女性に近付く母親を見ながら、頭を下げる。
「沙亜矢?龍児君の婚約者の、藍川原有紀さんよ」
「――“沙亜矢”?この方が、龍児さんの妹さんなんですか?」
私は龍児の婚約者と聞いた瞬間に、2人から目を背けた。
まさか、会うなんて。
だいたい私の名前に、何でそんなに驚くの?
どことなしに声色も刺々しかった気がする。
「龍児君とはどう?仲良くされてますか?」
「もちろんです。先日も食事に行きまして、良い時間を過ごせました」
「…………」
“先日”って、いつだろう。
マンションに来てくれて。
父親を訪ねてるけど、夜はわりと自由。
電話やメールは毎日してるけど、束縛するつもりは毛頭ない為、“今何してるの?”とかすら訊かないけど、デートはそつなく行ってるの?
…龍児……?
龍児は私より、彼女が好きなの?
お情けのキス?
どうでも良いキス?
信じたいけど、目の前で見せ付けられる視線を嘘とか本当だとか、見抜く力は私にはない。