My Love―お兄ちゃんとどこまでも―
「もう、私たちは龍児君とは関係なくなっちゃったけど、幸せになってね」



「……どういう事ですか?」



母親は頭を下げ、話を終わらせようとした。

きっと、私の態度も原因だろう。

しかし、勝ち誇ったような満面の笑みだった筈の藍川原さんが、表現を引き締めて母親に聞き返して来た。


 
「龍児君から聞いてない?私は龍児君の父親と離婚して、沙亜矢は実の父親の籍に直ったの」



「……そんな……。何でですか!?」



「何でと言われても、そうなってしまったのよ」



いくら龍児の婚約者だろうと、母親は理由の説明を避けた。

私だけの問題ではなく、母親にも悲しい事実だからだろう。



「それじゃあ、沙亜矢さんは……っ」



「沙亜矢が、何か?」



急に私に怯えたような目をする藍川原さんに、私は女の勘だろうか。

ピクッと眉を動かしながら、私もぎこちなく彼女を見上げた。

…知ってる……。

気付いてるだけかも知れないけど、藍川原さんは私と龍児の事を知ってるんだ。



「でも……実のお父様にも、家族が居て、戸籍を戻すのは……」



「話す必要はないだろうけど、沙亜矢の父親は独身よ。彼も私も龍児君もその方が良いと思って、今は長田沙亜矢なの。藤森とは、私以上に関係ないから、あまり話したくなかったの。気を害してしまったら、ごめんなさいね」



母親の丁重な謝罪は、藍川原さんに届いたんだろうか。

フラフラと、覚束ない足でカフェを出て行ってしまったんだ。
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