My Love―お兄ちゃんとどこまでも―
あまり調子に乗られたら、カウンターの下に隠された本棚の辞書で叩いてやれば良い。

そう思いながら立ったまま、カラスを見据えた。



「俺、長田機長は優しいから慕ってるんだよね。俺の事も嫌ってないと思う」



「それが、何か」



「どう?今夜、食事でも行こうよ」



…またですか……。

カラスって、どんな人も同じ。

私を誘ってるようで、監査役も務める父親に私から一声掛けて貰おうと、近付いて来るんだ。

この1週間でも3人目。

毎回、呆れを通り越して疲れる。



「私、彼氏が居ますので、カラスさんとプライベートまで関わるつもりありません」



「そんなの関係ない」



私はカフェからこちらへとやって来た父親に気付いて目配せをしながら、「では目的は?」とわざと訊いた。



「来週、審査があってさ。俺、成績ヤバいんだよねー。だから、いくら長田機長が優しいって言っても不安なんだよね。それで、君に長田機長にちょっと上手く言って……」



「――ですって。長田機長」



「えっ!!?;;」



オーバーな位、顔を歪めてカウンターに凭れるカラス。

私は倒れたカウンター番号の札を立て直しながら、間抜けなカラスを見続けた。
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