ボクは桜、キミは唄う
よくわかんないけど、脩君はなぜか忘れ物をすると、学年違うのにわざわざ私に借りに来る。

同じ学年の、他のクラスに聞きに行った方が明らかに早いはずなのに。

「借りにくるんだから、貸すのは仕方ないんだけどさ。けど、本当はちょっとやだ」

柚木くんが、今度は小さな少年のように膨れる。

「しかもその度に抱きついてるじゃん。辞書なんて実は忘れてなくて、結局楓花に触るための口実なんじゃないの?」

「じ、じゃあ、もう貸さない」

「──借りに来ても?」

「うん」

私の不安をかき消そうと、気持ちを伝えてくれた柚木君。

だから、私も出来る限り不安にさせない努力をしたい。

「嫌でしょ?私も辺な噂が立つのもいやだもん。そうだ、もう脩くんとも話さない。そしたらきっと」

「楓花いいよ、大丈夫。いきなり無視するわけにもいかないだろ。

ごめん。ちょっとした俺の焼きもちだからさ」

柚木くんは照れくさそうに、でも「楓花のその言葉だけで、安心できるから」って、膨れた顔を笑顔に変えてくれた。

「柚木君」

安心、した?

安心させられた?

「ん?」

まだ残っていた涙を両手で拭って、柚木君を真っ直ぐ見つめる。

私は何も持ってないけど

「好き」

もう少し、側にいてもいいですか。

柚木君は満面の笑みで

「初めて言ってくれた」

って真っ直ぐ見つめ返してくれた。

「やっぱもうボタンあげる」

そして、ワイシャツのボタンを無理矢理剥ぎ取ろうとする。

< 108 / 366 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop