ボクは桜、キミは唄う
「向かい合わせが良くないのかな。ほらご飯とか、向かい合わせより隣の方がいいとか言うじゃん」

「あ、そっか」

柚木くんはいいことを思い付いたという風に「じゃあ」と言って私の隣に座り直し、ニコッとした。

近い………。

テーブルは思っていたよりも小さくて、ちょっと動けば肩が触れる距離に柚木君が来てしまった。

お互いのノートは未だに白いままで、柚木君のシャーペンは軽快にくるくると指で回されてる。

「あーなんかごめん、やっぱ集中できないや」

そして、降参という風にシャーペンをノートのうえに置くと、柚木君は大きなため息をついた。

「あのさ~やっぱ、やめたほうがいいかな」

「え?何を?勉強?」

「いや、勉強はしなきゃなんないんだけどー。そうじゃなくて。

俺、突然楓花って呼ぶようにしたじゃん。みんなに付き合ってることバレちゃったから、それで嫌なことが続くなら、やめたほうがいいのかなーと思って。今、それをずっと考えてた」

柚木君の温もりにドキドキしてたのが恥ずかしい。

柚木君はちゃんと私のために考えてくれてたんだ。

「でも、今やめても、もう付き合ってることみんな知ってるよ」

「あ、そっか。もう遅いか」

柚木君はちょっと考えて、

「本当は、嫌だった?みんなにバレるの」

少しだけ寂しそうに聞いてくる。

私は大きくブンブンと首を横に振った。

「嫌じゃないよ。嬉しいよ。本当はもっともっとみんなに早く、付き合ってること言いたかったもん」

「本当?良かった~。なんか付き合ってても全然俺ら距離が縮まらないって言うかさ、周りもわかってないし、なんとなく実感なくて、ちょっと焦って……」

柚木君は照れくさそうに頭をポリポリかく。

同じこと考えててくれたんだ。

私ばっかりが縮まらない距離に不安を抱えていた訳じゃない。

それがわかって、私はさらに嬉しくなった。

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