ボクは桜、キミは唄う
「先生の恋は本当に成就したんですか?」

「おお!これからな!」

え?これから?

先生はポケットから指輪の入った小さな箱を取り出して見せてくれた。

「まだ受け取ってくれないんだけどさ。手応えはいい感じ!」

それは成就したとは言えないのでは?

「大人になればなるほど、世間体とか建前とかめんどくさいこと考えるようになって、なかなか自分のやりたいこと出来なくなるんだよな。

けど、お前らはまだ若いから羨ましいよ。いくらでもやりたいことやって失敗できるだろ。まだまだ何度でもやり直しがきくからさ」

先生の想い人は、世間体を気にして、答えを出せずにいるのかな。

私達は何度でもやり直しができる──

もう一度、柚木君と歩く未来を夢見てもいいのかな。

柚木君が心配しないくらいに強い私になって、大丈夫だよ、もう怖くなんかないんだよって伝えたら、もう一度私達は一緒に行かない歩き出せるのかな。

その為には、今、何をしたらいい?




「先生、私、決めた!」




柚木君に伝えなきゃならないことがある。

いつか柚木君が言ってくれたこと、守るよって。





『俺のせいで楓花がやりたいこと我慢したり、諦めたり、レベル落としたり、そういうのはしてほしくない。

俺と出会わなければ、楓花はもっと上を目指せたんじゃないかとか、そういう風に考えたくないんだ』



私は柚木君と出会ったから苦しんだわけじゃない。

辛いこともあったけど、柚木君と付き合ったことを後悔なんてしてない。

そして今、柚木君がそこにいてくれるから、頑張ることができるんだよって。

伝えなきゃ。

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