ボクは桜、キミは唄う
先生にペコッと頭を下げると、私は真っ直ぐ前を向いて走り出した。

大切な人に大切な事を伝える為。

広場は、私達の中学校の生徒だけじゃなくて、一般の人や、他の中学の生徒も入り交じって、人で溢れ反っている。

でも、こんな事でへこたれてちゃダメなんだ。

必死で、人混みの中を走り回った。

夜空を見上げる人々の中で、私だけが違う方向に目をやる。

違う、違う、違う、違う、違う……。

空を見上げる人の顔を1人ずつ見ては走った。

「すいませんっ」

人にぶつかり、つまずき、それでも足は止めない。

今まで柚木君がくれた優しさの時間を思えば、探し回るこの時間なんてどうってことない。

「……あっ」

顔ばかり見ていたせいで、足下の段差に気づくのが遅かった。

転ぶ!!

バランスを崩した私の目の前には、石段が広がっていた。

ぶつかる!!

体勢を戻すすべもなく、ぶつかる痛みを覚悟して目をつぶった時、

「楓花!」

懐かしい呼び声と、懐かしい匂いが私を包んだ。

柚木君が、傾いた私の体をギリギリのところで支えてくれている。

「……見つけた」

< 268 / 366 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop