ボクは桜、キミは唄う
カタカタと柚木君のシャーペンが走る。

そう言えば去年から家庭教師つけてるって、北川君が言ってたっけ。

熱心だな。

負けていられないと、私も参考書を開いたとき

「ガリガリ君、食いたくなるね」

不意に柚木くんがそんなことを言った。

「あ、俺だけ?」

見上げると、以前と変わらない柚木君の笑顔がそこにある。

一緒にテスト勉強しながらガリガリ君食べたっけ。

初めて手を繋いで。

ドキドキして勉強どころじゃなくて。

そして、初めてキスをした──

そこまで考えて、懐かしさと切なさが込み上げる。

今までいろんなことに蓋をして、無理矢理割りきろうとしていたのに、付き合ってた頃と同じ状況におかれて、同じように柚木君に微笑まれたら。

戻りたいって、思ってしまう。

手を伸ばせば、届くんじゃないかって期待してしまう。

答えられずにいる私を、柚木君はただ見つめ返していた。

好き…………って言ったら、柚木君はなんて言うのかな。




「柚木君、私…………」













< 280 / 366 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop