ボクは桜、キミは唄う
二人が叩き合いながら去っていく後ろ姿を見送ると、私はひとりで音楽室に向かった。

キュー。

聞き慣れたネジの錆びた音が、緊張を誘う。

柚木君と付き合い始めた時、柚木君と別れた時、見守ってくれた音楽室。

そして、窓の外から見ている桜の木──。


ピアノの椅子に腰かけると、大きく深呼吸した。

まだ何をどう伝えるか、言葉なんて決まっていない。

でも、もし、柚木君の気持ちがまだ変わらずにいてくれるなら、もう一度柚木君の隣を歩きたい。

好きって、伝えるだけじゃ足りないくらい、私の中学校生活は柚木君でいっぱいだった。

窓の外を見下ろすと、ナカちゃんと北川君が手を繋いで歩いているのが見えた。

「なんだ、手繋いでるんじゃん。ふふ。ラブラブ」

すぐそばの桜の木が、二人を優しく見守っているよう。

本当に、恋の神様なのかな。

私の誓いは、届いたのかな。


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