ボクは桜、キミは唄う
俺の前では、泣いてもくれないんだね、と、泣くのをこらえてる私に気付いた佐々木君は

「清水さんもこれから帰るとこだったから、下に行けばまだいるんじゃないかな。そこまで一緒に行こう。で、ちゃんと話してみなよ」

と言った。

ナオちゃんがまだいるなら、柚木君もまだいるだろうか。

もし、もしもう本当に過去になったのだとしても、それでもせめて、柚木君の口から直接聞きたい。

でなきゃ、終わらせられない。

私は慌てて音楽室を飛び出した。

「え?工藤さん??」

カチンッ、コロコロ……

その瞬間、胸につけていた校章が外れ、床に転がる。

柚木君の校章。

「いいよ、拾っておくから」

「ごめんね、ありがとう!」

私はそのまま、柚木君がいることを祈って階段をかけ下りた。




1階まで下りると、ほとんど帰宅してしまったのか、ぽつりぽつりとしか生徒がいない。






その中に、柚木君の姿を見つけた。






くつ箱の前に座り込み、ただひとり、そこにいる。

上がった息を整え、何て声をかけようかと考えるけど。

言葉が出てこない。

迷ったまま動き出せずにいると

「工藤さん、はい、校章」

追いかけてきた佐々木君の呼びかけに、柚木君がこっちを見た。

「あ、ありがとう」

校章を受け取り、もう一度柚木君の方を見る。

私と佐々木君を見つめてるだけの、柚木君。

「──柚木君……」

届くはずのないほど小さな私の声は、近くを通りかかった生徒の笑い声にかきけされてく。

もう、話すのも面倒くさいくらい、私は過去になってしまった?

最後の告白も聞きたくないくらい、柚木君は未来に向かって歩き出してしまったの?

柚木君は立ち上がり、私達に背を向けると、佐々木君の

「柚木、じゃーなー!」

って声にも答えずに歩き出してしまった。
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