ボクは桜、キミは唄う
もう一度。

もう一度だけ。

勇気を振り絞って、柚木君を見つめたい。

もしみつかるなら、その本心を見たいの。

期待と不安が入り交じった感情が、私の心を支配する。

もし少しでも足を止めたら、またすぐ怖くなって逃げ出してしまいそうで、私は走り出した足を止めないように、真っ直ぐ柚木君の家へ向かった。

「はぁ、はぁ」

肩で呼吸をしながら、やっと足を止めたのは、柚木君の家の前。

必死で息を整え、柚木君の部屋を見上げる。

夕方4時。

少しずつ薄暗くなり始めていたけれど、部屋もリビングもカーテンが開いたまま、明かりもついていない。

いないのかな?

インターホンを押すのを躊躇い、私はその場で待つことを決めた。

家にいるなら、暗くなったら部屋の明かりがつくはず。

そしたらインターホンを押してみよう。

つかなければ、いつかここへ帰ってくるはず。





会ったら、何て言おう。

もういいよ、と言われても、それでも伝えなきゃならないこと。

ちゃんと言いたい。
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