ボクは桜、キミは唄う
昼休み、お弁当食べ終えるとすぐに音楽室へ向かった。

キューッ。

音楽室の扉は結構前からネジが錆びてるらしい。

開く度、変な音を出してはスッと消えていく。

その音を聞くと、まるで別世界へ誘うおまじないみたいって、思う。

音楽室の窓から見える桜の木が、私の気持ちをいつも落ち着かせてくれるからかな。

今は葉っぱが生い茂った状態だけど、入学してすぐは満開の桜が窓を覆っていた。

青空がそこだけピンク色に染まってしまったみたいに。

そして、音という音がすーっと吸収されていくここは、他の教室と違ってとても静かで。

私はここが好きなんだ。

ピアノに近づくと、そっとフタを開けて

ポローン──

人差し指で鍵盤を押してみる。

響いたその音はやっぱりスッと壁に吸収されていった。

柚木君、今頃何してるんだろ……。
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